神尾楓珠が選んだ1冊は?「“常に最悪を想定する”という考え方に衝撃を受けました」
公開日:2025/2/13
※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2025年3月号からの転載です。

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、神尾楓珠さん。
(取材・文=皆川ちか 写真=TOWA)
高校時代までサッカーをしていた神尾さんは、2011年にこの本が刊行されたとき、すぐ手にしたそう。
「前年の南アフリカで開催されたワールドカップでキャプテンを務めていた長谷部選手が、すごくカッコよくて。試合の流れ全体をよく見て、仲間が気持ちよくプレイできるよう支える縁の下の力持ちみたいなプレイスタイルに憧れていました」
当時は12歳で、内容を全て理解できたわけではなかったが、最も刺さった部分は今でも憶えているそうだ。
「“常に最悪を想定する”という考え方に衝撃を受けました。それまで、そんなことを考えてサッカーをしたことがなかったから。でも最悪の事態を想定するということは、自分に期待しすぎないことなんですよね。そう捉えたら、うまくいかなかったときでも気持ちを切り替えやすくなる。第一線で活躍し続けてきた長谷部さんだからこその説得力です」
この本は、これからより多様な価値観と出合っていく10代の人々に特におすすめしたいと語る。
「僕には高校生の妹がいるんですが、こんな考え方があるよ、と伝えたいですね。思いがけない発想がたくさんあって、若いうちから出合っていただきたい一冊です」
爆風スランプの同名曲にインスパイアされて生まれた映画『大きな玉ねぎの下で』。本作で神尾さんは就活に苦闘する大学生・丈流を演じている。看護師を目指す美優と出会い、最初は互いに反発する。
「丈流はうまくいかない状況を認めるのが嫌で、自分を守るため強がっている人物。美優もまた人に弱みを見せまいという性格だから、たぶん似た者同士なんだと思います」
実は二人は、夜はバー、昼はカフェになる同じ店でアルバイトをしていた。夜と昼の人をつなぐ、バイトノートの交流を通して相手の素性を知らないまま、惹かれあうが……。
「劇中に登場するノートには、実際に僕らが書き込んでいたのですが、あんなにがっつり字を書いたのは学生時代以来でした。手書きって疲れるし、集中力が要るんですね。簡単には削除できないから自分の考えを整理しながら書かないといけない。それがかえって新鮮でした」
手書きの字には体温が乗るという。
「美優に向けて書いているとき、丈流は自分自身の心にも向きあっていたと思うんです。基になった楽曲に込められている大切な人を想う気持ちの優しさ、切なさと共に楽しく観ていただけたら嬉しいです」
ヘアメイク:奥山信次(barrel) スタイリング:大内美里
かみお・ふうじゅ●1999年、東京都生まれ。2015年、24時間テレビドラマスペシャル『母さん、俺は大丈夫』で俳優デビュー。今作で草野監督作品への出演は、映画『彼女が好きなものは』に続き2作目。近年の出演作に映画『カラダ探し』『恋は光』、ドラマ『いちばんすきな花』『くるり〜誰が私と恋をした?〜』など。

『心を整える。勝利をたぐり寄せるための56の習慣』
長谷部 誠 幻冬舎文庫 737円(税込)
心は鍛えるものではなく、整えるもの――。日本代表キャプテンとして数々の大会を率いてきた長谷部誠によるメンタルコントロール術。自意識との付き合い方、孤独の時間を持つこと、楽な道は避けるetc……。自身のサッカー人生の中で得た気づきが落とし込まれている一冊。

映画『大きな玉ねぎの下で』
監督:草野翔吾 脚本:髙橋 泉 ストーリー原案:中村 航 出演:神尾楓珠、桜田ひよりほか 配給:東映 2月7日(金)公開
●夜はバー、昼はカフェとして営業する店「Double」。夜と昼でそれぞれ働く丈流と美優は、互いに相手の素性を知らないまま業務連絡用のバイトノートで交流する。一方、あるラジオ番組では30年前の、一組のペンフレンド同士の恋のエピソードが語られる。
(c)2024映画「大きな玉ねぎの下で」製作委員会