高倉健が『南極物語』の撮影現場で肌身離さず読み返した「愛読書」とは。読書家・健さんの図書係が綴る、名優をつくった12冊【書評】
公開日:2025/2/6

「昭和の寡黙な男」と言えば、名優・高倉健さんを思い出す人が多いのではないだろうか。人生の重みを感じるその静かな佇まいは、憧れをかき立て続ける。そんな高倉健さんが亡くなったのは2014年11月。もう10年以上の歳月が流れたのかと思うと寂しい限りだが、昨年の秋に健さんの新たな素顔を知ることのできる本が登場したのをご存じだろうか。『高倉健の図書係 名優をつくった12冊(角川新書)』(谷充代/KADOKAWA)は、熱心な読書家だったという健さんの一面を知ることができる一冊だ。
著者の谷充代さんは、1980年代半ばから2000年代まで、健さんへの取材を重ねてきたフリーランスのルポライター。これまでも『旅の途中で』(高倉健/新潮社)のプロデュースや、自著として『「高倉健」という生き方(新潮新書)』(新潮社)、『高倉健の身終い(角川新書)』(KADOKAWA)ほか、健さんについての複数の書籍を手がけてきた方である。
健さんから信頼の厚かった谷さんは、取材のほかに大きな役割を担っていた。それが「高倉健の図書係」。小説を読むのが好きで、気になった本は手元に置いておきたいタイプだった健さんは、絶版となった古本が欲しい場合には、谷さんに「本を探してほしい」と電話してきたのだという。古本屋をめぐり、どうしようもないときには版元に連絡し…今のようにネットがない時代だから、宝探しのように本を探しあてたという谷さんは、健さんと本についてさまざまに語り合った。一体、健さんはどんな本を読んでいたのか、本とどう接していたのか、本書はそんな一端を知ることができる本をめぐる交流譚だ。
自宅の書斎は本がぎっしりで、「これだ」と思った一冊はボロボロになるまで繰り返し読んでいたという健さん。たとえば山本周五郎の『男としての人生 山本周五郎のヒーローたち』(木村久邇典/グラフ社〈絶版〉*現在復刊ドットコムによる電子書籍のみ)は、そんな一冊。山本周五郎の作品中の名文句を次々と紹介するいわば格言集であるこの本を、健さんは命の危険にすらさらされた『南極物語』(1983)の撮影現場に唯一持ち込んだ小さなデイパックに入れ、肌身離さず何度も読み返したという。
あるいは池波正太郎が時代の変化を越える“男の生き方”を綴った随筆『男のリズム(角川文庫)』(KADOKAWA)も相当お気に入りだったらしく、ページを繰るのが早く、目的の箇所で指先がピタッと止まったと谷さんは回想する。
本書はこうした健さんとの交流のほか、谷さんが最後のインタビューを手がけた三浦綾子さんとの出会いについて、そして谷さんが『アサヒグラフ』の特集で白洲正子さんと旅した日々についても丁寧に記されている。谷さんが交流したお二人の様子を、彼女を通じて興味深く受け止める健さん。昭和という時代を生きた偉大な才能たちの微かな「ふれあい」も心に残る一瞬だ。
テクニックじゃない。読んだ活字が、生き方が芝居に出る――そんな健さんは酒もタバコもやらず、読書を唯一の楽しみにしたという。読書に対するストイックな姿勢もサマになるのが健さんだが、その風情には及ばなくとも彼が読んできた本ならば入手可能。本書を参考に名優・高倉健を育てた本をひもとけば、あなたも少し「骨太」になれる(?)かもしれない。
文=荒井理恵