犯罪は子どもに遺伝するのか? 清水玲子の大人気「秘密」シリーズ最新刊で描かれる、DNAを巡る物語【書評】

マンガ

公開日:2025/2/20

秘密season0 11巻清水玲子/白泉社

 死者の脳を特殊なスキャナーにかけ、その人物が生前に見た映像を再現する捜査を行う特別研究室、第九。カリスマ的な存在感を放つ第九のリーダー、薪と、その部下にしてよき相棒の青木がさまざまな事件と対峙する、清水玲子の超人気シリーズ『秘密season0』(白泉社)。最新エピソード「DNA」編を完全収録した11巻および12巻が、同日発売される。

 生命倫理から社会情勢まで、私たちが生きている現代社会が抱える諸問題を果敢に取り上げている本作だが、今回俎上に載せているのは“遺伝子”。殺人者の遺伝子を持つ子どもは殺人者となるのか? という挑戦的な問いを立てている。

 中心となるのは2人の少年だ。死刑執行された連続殺人犯・早瀬の遺伝子を受け継ぐ18歳の星乃と、12歳の要。互いに“父”が同じであることを知らずに出会った彼らは、自分たちでもなぜか知らずに惹かれあう。しかしその矢先、早瀬のかつての犯行を彷彿とさせる殺人事件が発生。その凶行に及んだのは星乃だった。

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 星乃は、自らの血に流れる父譲りの遺伝子が持つ殺人衝動に突き動かされたのだろうか。そしてその遺伝子は、いつか要をも殺人者へと変質させるのか。

 星乃と要の葛藤に、薪は他人事とは思えない感情を覚える。というのも薪自身にも、実の父は殺人者という背景があるからだ。自分もまた、いつ犯罪者の側へ行くかもしれない不安と恐怖を抱えながら、彼らを追跡する職業を選んだ薪。殺人者、それも常軌を逸した殺人者であればあるほどシンパシーを感じてしまう薪は、常にゆらいでいる。そのあやうさが彼の魅力ともなっている。

 そんな薪を“こちら側”に引きとどめるのは、かつては親友の鈴木であり、今は青木だ。ときとして薪が“あちら側”へ一歩足を踏みだそうとするたび、青木はその愚直なまでのピュアネスで薪の闇を照らしだし、救っている。そんな2人の関係は今作でも楽しめる。

 薪と同じく、殺人者の子どもとして生まれた星乃と要。

 彼らの物語に負けないほどの重みを持って描かれるのが、要の母親・花鈴の苦しみだ。殺人者と知らずに精子提供を受け、生まれた赤ん坊を愛そうとしてきた花鈴。しかし星乃の事件が起きたことに恐怖を感じ、息子を見る目が変わってしまう。もしやこの子も18歳になったら、人を殺したいと思うようになるのか……と。

 子どもの犯罪というテーマは前巻「悪戯」編でも掲げられていた。今回はそこへさらに親側の物語も取り入れ、もし我が子が犯罪者になってしまったら? という親の苦悩も展開されている。

 要を愛したい気持ちと、忌み恐れる気持ちに引き裂かれる花鈴。そんな母の様子に心を痛めながらも、母を愛し、母からの愛を求めてやまない要。この親子がどのような着地点に到達するのかを、花鈴の夫(要の義父)や娘(要の異父妹)も交えた彼ら家族の物語として鮮やかに描ききっている。

 読み終えたあと、人間性を決定づけるのは遺伝子か、それとも生育環境か? という問いへの作者からの明確なアンサーを、あなたはきっと受けとるはずだ。12巻に収録されているもう一本の短編も含め、今回は親と子の絆、あるいは呪縛について見据えた内容となっている。

文=皆川ちか

『秘密ートップ・シークレットー』試し読みはこちら

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