川崎百鬼夜行/絶望ライン工 独身獄中記㊳
公開日:2025/2/19

京浜東北線に乗って蒲田の隣、川崎。
東京湾に広がる巨大な製鉄所は海に浮かぶミッドガルだ。
夜になれば妖しい光を放ち、マニアにはたまらねぇサイバーパンクみのある夜景を眺める事ができる。
実際川崎という街はパンクな場所であり、繁華街を歩けば喧嘩に酒場に鉄火場、少し離れて色街といった具合だ。
川崎は危険で、大変魅力のある場所である。
日本国が統治し、司法はわが国のそれが適用されてはいるが、実情はどうだか分からん。
多摩川を国境とした北には我らが城塞都市蒲田がそびえ、帝都東京管轄であるにもかかわらず川崎の従属国として運用されている現実がある。
このことからも川崎は町田と並び、国家から独立した自治区であるという認識でほぼ間違いない。
私は職場が蒲田であるから、仕事が終わってチョット飲みたい時などは川崎へ心が向く。
蒲田も飲食店はごまんとあるが、声をかけられる事が増えてから少しずつ足が遠のく。
(いつも観ていただいてありがとうございます)
法治国家で人目を気にしながら行儀よく飲むより、無法地帯で何も気にせず己を解放するほうが性分に合っている。
そんなわけで京急の駅まで歩き、六郷土手を見下ろす鐡道橋を渡って国境を越えるってわけ。
ホームの階段を降るとすぐに甘~いツユの香りがしてくる。
改札にワカメのかき揚げをソバに乗せて出す店があり、とても旨い。
アーケードに入れば一蘭、天下一品、王将に日高屋まで一通り揃い、少し歩けば二郎や蒙古タンメンまである。
伝聞によると艶めかしい装いの女性が酌をする茶屋もあり、そこではいくら武勇伝や自慢話をしても「すごーい」と笑顔で褒め讃えてくれるのだとか。
そんなオッサンのパラダイスみてえな場所があるのも、欲望都市川崎ならでは。
しこたま飲んだ後は旧国鉄駅まで地下大回廊で行けるが、地表を歩いてストリートミュージシャンどもを冷やかすのも粋である。
ギターを弾いて声を張り上げる若き才能を妬み、舌打ちしてその場を去るもよし、メイドの恰好で歌う女性シンガーに群がるオッサン達に混ざるもよし。
酔っぱらって聴くメイドシンガーのラブソングは実に心に来る。泣きそうだ。
この悲しさの理由は分かっているんです。
誰も貴女の歌など聴いてはいない、ただ歌い終わった後話して繋がりたいだけ。
何をするにも金のかかるこの街で、唯一無料で女性と話せるサービス。
それがこの路上フリーキャバクラである。一緒に写真も撮れるぞ。しかもタダで。最高です。
最高に悲しい。悲しみの連鎖だ。
帰りの京浜東北線に揺られながら、色々なことを考える。
日高屋で領収証をもらい忘れたこと。しくった。
さっき見かけた顔まで刺青の入ったニイちゃん。ああいう人って何の仕事しているんだ。
駅前で聴いたメイドシンガーの歌。何歌ってたかまったく思い出せない。
それに群がる我々金のない寂しいオッサン。つらい。
そういえば川崎ハロウィンていつの間にか中止になったな、思わず調べてみる。
どうやら開催期間中の治安悪化で中止になったそう。
なんとも川崎らしい。そういえば一度だけ行ったことがある。
若者やギャルに混じって出来婚ファミリーが大挙して押し寄せる地獄の百鬼夜行。
彼らの通った後に草木は生えぬ。あるのは空き缶とゴミ、煙草の吸殻だ。
我が宿命の地、郡山を何倍も濃くしたような自由な民度は禍々しさあまって清々しくさえあり、あのように生きられたらと羨みもする。
ご禁制となった川崎を飛び出し、変態仮装行列は続く。
国境を越え、偏差値の壁を越え、若い男女は再びパチ屋で出会うだろう。
そうして育まれた命は神の子だ。その名を呼ぶは畏れ多い──
名前が読めない。
<第39回に続く>42歳独身男性。工場勤務をしながら日々の有様を配信する。柴犬と暮らす。