「“じゃない方”扱いは悔しいに決まってる!!」同姓同名のスターと間違えられて相撲部屋に入門。自信喪失する青年力士の成長物語【書評】
PR 公開日:2025/2/17

『えびすこ!』(えれまどか/少年画報社)は、取組(とりくみ)のシーンに圧倒される“相撲を知らなくても楽しめる相撲マンガ”だ。
主人公の田村勇一(たむら・ゆういち)は三段目の若き力士。
負けても「しょうがない」とさらっと敗北を受け流してしまうような、気合がない青年である。中学卒業後、相撲部屋に入り数年経った今、厳しい稽古にも慣れてしまい、ぬるま湯のような日々を過ごしている。
入門したばかりの勇一はやる気に満ちていた。何もかもが新鮮で、輝いていて、将来への希望で溢れていた。
だがある時、自分が同姓同名の「スーパースター」と間違えられ、この相撲部屋にスカウトされていたことを知りショックを受ける。才能を認められて角界に入ったのではなく、単なる、間違いだったのだ。
それから勇一は、今や期待の新人としてメディアにも注目されているスーパースター田村勇一の「じゃない方」と揶揄され、稽古にも熱が入らず、自分にも自信が持てず、くすぶった日々を送っていた。


日々が変わったのは、勇一が付き人をしているベテランの関取・香雀関(こうじゃくぜき)が引退を考えていると知ってからだ。
長い間戦ってきた香雀関には最盛期の強さはない。体力も衰えて若手力士にカッコ悪く負けるようなこともある。それでも香雀関は敗北を心底悔しいと感じていた。勇一とは違い、その激痛が伴う心の痛みから逃げないのだ。
「悔しくないのか?」
問いかけられるその言葉に、勇一は抑え込んでいた感情を爆発させる。「悔しいに決まってんだろ!!」と。
以降、勇一は、さまざまな先輩力士たちと関わりながら、「じゃない方」ではない、新たな相撲人生を踏み出していく。
本作は「相撲を知らない人にも読んでほしい」相撲マンガだ。
正直、私自身あまり相撲に興味はなかったのだが、作者の相撲好きが伝わる細かい描写や、若い力士たちが相撲部屋で共同生活をするリアル感などはとても面白かった。
自信満々で新しい環境に入り、時が過ぎるごとに現実が見えてきて、自信を喪失していく勇一のつらさも、共感できる。
また個人的には、力士のことを「ただ太っているだけの体型」ではなく、アスリート体型で描いているところにも、相撲愛を感じられて楽しかった。
何よりインパクトがあったのは、取組のシーンだ。マンガだからこその表現も駆使されていて、かなりの迫力を感じた。


巨躯と巨躯が激しくぶつかり、殺気と殺気が弾け合う。口から、体全身から、汗が蒸発し煙のように立ち上る様は、「相撲は神事だ」とされてきた歴史が、すっと腑に落ちるような気もした。
もちろん私に専門的な知識はないので、あくまでそう感じたというだけなのだが、神聖な土俵の中で、二人の男が激しくぶつかり合う際の闘志は、神事というのにふさわしい特別なエネルギーを発しているのではないだろうか。
相撲好きにはもちろん読んでほしい一冊だが、未熟だけど一生懸命な勇一と、相撲の“知らなかった”世界を楽しんでみるのはいかがだろうか?
文=雨野裾