染谷将太さんが選んだ1冊は?「五感で楽しめる沸き立つような文面と想像を超える展開に引き込まれました」
公開日:2025/3/13
※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2025年4月号からの転載です。

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、染谷将太さん。
(取材・文=倉田モトキ 写真=干川 修)
「最初は、本のタイトルを見て、ジメッとしたサスペンスなのかなと想像していました。でも突然、霊体と交信するというオカルト的な展開になっていって。“えっ、そこ!?”って、すごく興味をそそられました」
染谷さんの推薦本は『奇妙な絵』。ベビーシッターのマロリーが働く先の家で目にしたのは、少年テディが描く絵の数々。それらはやがて、何かの殺人事件を示唆するかのような不気味な内容へと変わっていく……。
「主人公は元薬物中毒者なんです。ただ、療養期間が18カ月というとても微妙な長さで。だから、彼女が再犯し、幻覚を見ているだけなのかも……というミスリードも読者に想起させる。僕の考察では、実は彼女がサナトリウムにいて、すべて妄想だったというラストを予想していました。全然違う結末でしたね(笑)」
普段、好きな小説の種類を訊くと、「五感で楽しめるもの」と染谷さん。
「登場人物たちの体温や部屋の匂い、光の強さ、湿度など、文面から沸き立つような感覚に染まっていく感じが大好きなんです。特にこの小説ではそれらをたくさん体感できるので、没入感が半端ない。何度もどんでん返しが続くし、物語の流れも素晴らしく、一気に読み切りました」
染谷さん主演の映画『BAUS 映画から船出した映画館』。11年前に閉館した「吉祥寺バウスシアター」の約90年の物語を描いた本作にも、戦前からの時代の香りが漂っている。
「僕自身、多くの青春時代を過ごした映画館でした。敬愛する青山真治監督が遺した脚本が元になっていて、プロデューサーの『一緒に“青山の呪い”に乗らないか?』という最高の口説き文句で出演を決めました」
脚本は甫木元空監督によって翻案されたが、映画のそこかしこに青山イズムが残っているという。
「僕が演じたサネオが閉館の時に話すスピーチは一言一句、青山さんのもの。少し不思議さを含んだ言葉だったのですが、実際に口に出してみたら、ものすごく意図が伝わってきました。『映画っていいよね』というシンプルな想いをみんなに伝え、共有したかっただけなんだなって。そこに青山さんらしさを感じました」
また、「本作は過去と未来をつなぐ物語でもある」と染谷さん。
「劇中では一瞬一瞬が過去になり、多くのものが失われていく。でも、〈あした〉という言葉が何度も出てきて、新たな先へと旅立つ姿も描かれている。この映画から、希望を感じてもらえたら嬉しいです」
ヘアメイク:光野ひとみ スタイリング:林 道雄 衣装協力:サスクワァッチファブリックス(ドワグラフ https://sasquatchfabrix.com)、セージ ネーション、ナイスネス(イーライト TEL03-6712-7034)
そめたに・しょうた●1992年、東京都生まれ。2011年、映画『ヒミズ』でヴェネチア国際映画祭マルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)を受賞。近年の出演作に映画『聖☆おにいさん THE MOVIE〜ホーリーメンVS悪魔軍団〜』『はたらく細胞』『劇場版ドクターX FINAL』、ドラマ『ブラッシュアップライフ』『いちげき』など。

『奇妙な絵』
ジェイソン・レクーラック:著 中谷友紀子:訳 早川書房 3410円(税込)
ドラッグ依存症から抜け出し、マクスウェル夫妻の元でベビーシッターとして働き出したマロリー。5歳の男の子・テディの世話をしながら、彼女はテディが奇妙な絵を描いていることに気づく。それは森の中で女性の遺体を引きずっている男の絵。かつてこの地で起きた殺人事件を思わせる絵に隠された真実とは――?

映画『BAUS 映画から船出した映画館』
映画『BAUS 映画から船出した映画館』
監督:甫木元 空 脚本:⻘山真治、甫木元 空 出演:染谷将太、峯田和伸、夏帆ほか 配給:コピアポア・フィルム、boid 3月21日(金)より全国ロードショー
●1927年、青森から上京してきたサネオとハジメは吉祥寺で初の映画館「井の頭会館」で働きはじめる。その後、サネオは社長として奮闘。劇場は戦火を生き延び、時に場所や名前を変えながら、映画のみならず、演劇、ライブ、落語など多文化の発信基地として街に根づいていくが――。
(c)本田プロモーションBAUS/boid