モード誌編集者も「風呂キャン」はする…ベテラン編集者が華やかな業界の裏側にある汗、涙、笑いの記録を綴ったThreads日記が書籍化【書評】
更新日:2025/3/19

Facebook、Instagram、X、TikTok、YouTube……。現在、自分を表現するツールであるSNSは数多く存在する。新しいアプリが登場するたびに、とりあえず登録してみるものの、既存のものとの使い分けはむずかしく模索する日々。
そんな中、2023年にThreadsに投稿されたのが「#モード編集者日記」だ。著者の龍淵絵美さんは、長年モード誌で働くファッションエディター。見せたい自分を画像で見せるInstagramとも、「いまのきもち」をつぶやくXとも違う、最大500文字の文章を投稿できるThreads。彼女はここにキラキラしている業界の裏側にある、不恰好だけど価値のある生き様を日記形式で綴り始めた。この1年以上書かれ続けたThreads日記が、3月に書籍化された。タイトルは『ファッションエディターだって風呂に入りたくない夜もある』(龍淵絵美/集英社インターナショナル)。おしゃれなファッションエディターでも風呂に入りたくない日があるのか…、と親近感が湧いたのは私だけではないだろう。
『フィガロジャポン』『エル・ジャポン』『ハーパーズ バザー』など、数々のモード誌で編集者として活躍してきた龍淵絵美さんは、自身を「女侍」と自称する。新卒で入った出版社から現在まで、媒体や形を変えながらもモード誌の編集者として一線を走り続けるその生き方はまさにタフ。NY、パリ、ミラノなど世界各地を飛び回り、世界的に有名な日本内外のクリエイターたちと仕事をする。華やかで目まぐるしいファッション業界を華麗に渡り歩いていく。
仕事はもちろん、結婚も家庭も、全てを自分の意思で掴み取り、素敵な家族と楽しい仲間と幸せ街道まっしぐら!……に見える彼女の人生も、実は山あり谷あり。この日記からは、彼女が悩み、沈み、立ち止まり、時には風呂キャン(お風呂に入ることをキャンセル)しながら、自分自身、そしてその時々の働き方について向き合う姿が描かれる。
龍淵さんの女侍エピソードで象徴的だったのは第二子妊娠発覚後のこと。妊娠を隠してミラノコレクションへの出張へ行った龍淵さん。お腹を隠す腹巻きとハイヒールを履いて仕事をこなしていたというからすごい。「私には、とても無理……」と思わずつぶやかずにはいられなかった。無事に第二子を出産し、仕事と子育てを両立するために奮闘していく姿もたくましい。
この日記は龍淵さんの人生日記だけでなく、彼女の人生を彩る先輩・後輩の人物像やエピソードにも触れられている。ファッション業界という荒波をがむしゃらに、でもそうは見せずに乗りこなしてきた女性たちの姿は、生き方に迷う女の子たちに勇気を与えてくれる。
1日500文字の日記形式なので、SNSを見るようにサラリと読めるのが嬉しい。彼女の人生に共感したり驚愕したり、憧れたり反面教師にしたり……。この本のどこかのポイントに、誰もが心を動かされる瞬間があるに違いない。人生の岐路で悩んでいる人ならなおさらだ。強そうに見える女侍でも、こんなに悩んでいるんだから、めいっぱい悩んで、最終的に悔いのない決断をしよう!と思えるはず。
彼女は言う「頑張った分は自分に返ってくる!」。
そしてこう続けた「返ってくるように生きていかないと!」。
文=宮原未来