SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第45回「スーパー銭湯」

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公開日:2025/3/27

 私には刺青が入っている。生まれた時から入っているのだから仕方がない。
 嘘です、好きで入れました。

 社会は一昔前に比べたら、刺青に、そして刺青が入っている人に対して随分寛容になっているように感じている。しかしやはりアウトローの象徴っぽさは拭いきれないので、不便に感じることも多々。しかしながらそれについてどうこう言うつもりは微塵もない。例えば、良しとされていたものが、徐々に良くないものとされ、行動が制限されるようなことがあれば意見の一つも言っていたと思う。しかし、そもそも良くはない印象を持たれていたものだ。初めて刺青を入れた時にももちろん、そのことはわかっていた。不便に感じること、制限される場所、人があることを承認した上で入れたのだ。だから「もはや文化なんだし刺青が入っている人に対して寛容な社会に!」なんて自分からは絶対に言わない。社会が変わっていくんだとしたら、お、ラッキーくらいのもんなのです。海外では、とかあんま関係ないよね。ここ日本ですし。はい。

 と言いつつも、取り立てて困ったなアなんてことはそんなにない。元水泳部としては、いまだに全力で平泳ぎをしたくなる時があるので、その私の身体の衝動に応えてあげられないことは残念ではあるが、それは生きていく上でそこまで重要なことではない。玄関からリビングまで、両の手をスイスイさせながら歩くことで、どうにか欲求は抑圧できている。

 だから、本格的に困ったぞ、と頭を抱えてしまったのは、若い時分にスーパー銭湯に入れなかった時くらいかもしれない。それだって、生きていく上で、というカテゴリーには入らんでしょうが、と多くの人は感じると思う。しかしバンドマンにはのっぴきならない事情ってものがあるのよぅ。

 ざっくり言うと金銭面。ご存知の通りバンドマンという生き物はお金がないくせして全国を飛び回り、衣食住で勝手に苦しむ度し難い生き物なのだが、例に漏れず、私もかつてその一人でした(かつて、という言葉を使えてこれほどまで嬉しいことがあったでしょうか!)。

 初めて刺青を入れたのが23歳。メジャー落ちした風来坊、貧困の絶頂期。そんな時分に刺青なんか入れてんじゃねエよ、と思われる方もいるでしょうが、そこら辺冷静に判断できる頭があったらもっと早く売れてるっつうの。泣かせないで。

 兎にも角にも、出費を抑えたい。無駄な経費は削りたい。しかし最低限の人間の生活は守りたい。そう思った時、三千円でお釣りのくる、風呂に入れて、仮眠ができて、電源を確保することもできるスーパー銭湯という場所は私にとってなくてはならない場所であったのだ。だから刺青を入れた直後の地方、入り口の「刺青の入っている方お断り」と書かれたポスターを見た時、やっべ、と地面に膝を着いたのだった。ずっと在ったはずなのに当事者になってみて初めて見えるものってあるよね。やっちまったア、としばらく打ちひしがれた後、私は誰しもが思いつくであろうことを思いつく。

 隠したら、いけんじゃね? と。

 実は刺青からは強い毒が出ててそれがお湯に溶けて害が出たり、刺青から空気中に散布されたウイルスが、それを吸い込んだ人間の身体に同じ模様を浮き出させてしまうとか、そういうことだったら言語道断。しかし、このお断りの意味は、とある団体の方の入浴を未然に防ぐということもあるのだろうし、刺青を見て嫌な気持ちになってしまう人のことを考慮してのものだと思う。だとすれば、隠しさえすれば誰にも迷惑はかからないはずだ、と浅はかだった当時の私は思ってしまったのだ。

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しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。2025年4月に結成20周年を迎え、SUPER BEAVER 自主企画「現場至上主義 2025」を4月5日、6日にさいたまスーパーアリーナで行い、さらに、6月20日、21日に自身最大規模となるZOZOマリンスタジアムにてライブを行うことが決定。

自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中