DV夫に制裁! 憧れのプロレスラーと身体が入れ替わった主婦が自由のために闘う復讐劇【書評】
公開日:2025/3/30

自分よりも物理的に強い相手に強い恨みを抱いたとき、犠牲を厭わず反撃するには相当な勇気が必要だろう。しかし、もしそんなときに思いがけず、圧倒的な力が手に入ったとしたら――。
『闘う翼に乾杯を。』(東洋トタン/KADOKAWA)は、無力な現実に打ちひしがれていた主人公が思わぬ力を得て立ち上がる、異色の復讐ファンタジーだ。
主人公・つばめは、夫とふたりで暮らす主婦。昔は優しかった夫は結婚するなり豹変し、日常的に激しい暴力を振るうようになっていた。心身ともに疲れ果てたつばめの唯一の拠りどころは、趣味のプロレス観戦。すっかり生きる意味を見失っていた彼女にとって、生命力に満ち溢れた選手たちの姿は一筋の光だった。
そんなある日、つばめはプロレス観戦後の帰り道で偶然、夫の浮気現場を目撃。ショックのあまり手すりから手を滑らせ落下したつばめを受け止めたのは、これまた偶然居合わせた、彼女の推しレスラーだった。しかし、激しく衝突したはずみに、なぜかお互いの身体が入れ替わってしまう。それを機に、つばめは憧れのプロレスラーの力を借りながら、DV夫から逃れるため闘い始めるのだが――。
本作の見どころは、厳しい状況に直面しても諦めず、何が何でも自分の道を切り開こうとする主人公の逞しさだ。DV夫への恐怖心に立ち向かい、絶対に負けるまいと自身に言い聞かせながら何度も立ち上がるつばめの強さは、リング上で戦うプロレスラーのそれと重なるものがある。
また、そんなつばめの覚悟に感化され、しだいに彼女の人間的な魅力に惹かれていくプロレスラー・イーグルの心の動きも見どころのひとつ。主婦とプロレスラーという、一見まったく異なる世界に生きるふたり。偶然の出逢いがお互いの大きな力に変わっていくその軌跡が、読み手の心に強く迫る。
復讐の先に待つものははたして希望なのか、それとも――? 渾身の覚悟を胸に決死の闘いに挑むふたり。彼らの行きつく先を、どうか見届けてほしい。