“障がい者の性の課題を自分ごとに感じてくれる人”をひとりでも増やしたい−−− コミックエッセイ『障がい者専門風俗嬢のわたし』原案者と漫画作家と編集担当が語る“障がい者の性”をめぐる現在地とは…?【小西理恵×あらいぴろよ×編集担当 鼎談 前編】

マンガ

更新日:2025/4/2

『障がい者専門風俗嬢のわたし』
(漫画:あらいぴろよ 、原案:小西理恵/KADOKAWA)

 本来なら極めて個人的なことがらであるはずの自分自身の“性”について、身体的な障がいや知的障がいのために自分ひとりでは立ち行かない人々がいる。その現状に直面して“障がい者の性にとことん寄り添う”一般社団法人「輝き製作所」を立ち上げた小西理恵さんの実体験を原案にした、コミックエッセイ『障がい者専門風俗嬢のわたし』がSNSを中心に注目を集めている。

「輝き製作所」では事業として、障がい者の性介助にまつわるカウンセリング、体のしくみを知ることから始める“自分と他者を大切にするための性教育”に関する講演などを行っている。主宰の小西さんがその別事案として運営する障がい者専門風俗店で提供している“性サービス”について、是非を問う声は少なからず存在する。“でも、否定する前に知ってもらいたいことがある”と、本書原案者の小西さんと漫画制作を担ったあらいぴろよさん、さらに企画発案者の編集担当がオンラインで行ったクロストークを前後編にわたってお届けする。

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【コミックのあらすじ】デリバリーヘルスで学費を貯めて念願の看護職に就いた主人公・つくしは、ふとしたことから“障がい者専門風俗”の存在を知る。タブー視される“障がい者の性”に親身に寄り添い性介助を行う世界に飛び込こんだ彼女は、知的障がいの弟をもつ姉からの相談や、ヘルパーによる介護を必要とする20代男性、メンタル不調で治療中の女性など、様々な立場の人々やお客さんに向き合い、悩み葛藤しながらオーナーのしずくに支えられて成長していく。

“障がい者の性をもっと身近にしていく“コミックエッセイ”を届けたい!

――編集部から“障がい者専門風俗嬢”についての書籍をつくる依頼を受けたとき、原案者の小西さんと漫画を担当したあらいさんは、どのような感想をもたれましたか。

小西理恵さん(以下、小西):ものすごくうれしかったのと同時に、私たちの活動を書籍にしてしまって本当に大丈夫なのだろうか? という一抹の不安もありました。「輝き製作所」の活動を興味本位で受け止められてしまうと、本当に伝えたいこととの間にギャップが生じてしまうのではないかと心配になったからです。そこで原案者として、まずは懸念や不安を包み隠さず正直にお伝えすることから始めさせていただきました。

あらいぴろよさん(以下、あらい):私は以前、小西さんのインタビュー記事を読ませていただいたことがあったので、お声がけいただけて光栄でした。ただ、障がいをもつ方の性をテーマにした作品に取り組むのは初めてでしたので、私で大丈夫かしらと躊躇しつつも、逆に“この難しいテーマをまっすぐに描けるのは私しかおらん”と自分で自分を鼓舞しながらお受けしました。企画された編集部の中川さん含めて3者で“センセーショナルに消費されてしまうエンタメにはしない!”と、同じ方向を見ながら走り始めた感じでしたね。

――本書は「シリーズ 立ち行かないわたしたち」の中の一冊として刊行されましたが、改めてどのようにして企画したのか教えてください。

編集:「立ち行かないわたしたち」は、KADOKAWAコミックエッセイ編集部によるセミフィクションのシリーズで、困難にぶつかりながらままならない日々を懸命に生きる人々の物語を“自分ごと”として想像してもらうと同時に、いつか自分にも起こるかもしれない日常の物語を作品にして届けたいという想いから始まったんです。

 本書の企画はYouTubeの『街録ch(がいろくちゃんねる)〜あなたの人生、教えて下さい〜』で、障がい者専門風俗嬢として取材を受けていた小西理恵さんを知ったのがきっかけでした。手足が動かない障がいをもつ方や重度の知的障がいがある方の性を支援する小西さんの活動に、コミックエッセイを介してスポットを当てるのはどうかと考えました。

 中でも衝撃だったのは、“息子を性加害者にしないために実母が性介助をして身ごもってしまった”というエピソードでした。成熟しているはずの現代の社会で防ぐことはできなかったのか、と…。

 小西さんの談話からは、そうした現状を少しでも打破していくべく障がいをもつ方の性と向き合って寄り添う姿勢や、辛抱強く明るいお人柄が伝わってきました。また、小西さん自身の生き方にも惹かれて、ぜひ一緒にお仕事をしたいと企画書を送りました。

 漫画制作をあらいぴろよ先生にお願いしたのは、あらい先生ご自身が精神的なサバイバーでいらっしゃること。そしてともすればセンセーショナルに受け取られてしまいがちなテーマをあたたかく届ける筆力や、人の感情描写が巧みであることなどからお願いしたいと思いました。

――本書の制作期間は約1年。ミーティングはすべてオンラインで実施されたそうですが、著者のおふたりは初めての打ち合わせで実際に言葉を交わしてみていかがでしたか。

小西:あらいさんはめちゃくちゃ心に響くような言葉を一生懸命選んで伝えてくださる方。その熱量にすごく愛を感じました。

あらい:小西さんはとにかく表裏がない人。これまで打ち合わせを何度もさせてもらいましたが、“この人は絶対嘘をつかないで生きている”と思えたので、“私も魂をかけて描かないと!”と、精神的に引っ張ってもらった部分もたくさんありました。

“あたたかみのある性介助”を伝える漫画ができるまで

――『障がい者専門風俗嬢のわたし』を初めて読んだときに、ものすごく情報量が多いのにとてもわかりやすくて、タイトルとは裏腹にほっこりとエモーショナルな印象も残りました。原案をコミックエッセイ化したプロセスを教えてください。

編集:著者のおふたりとお話しさせていただいたあとに全体の構成案を作成して、そこから3者でミーティングを重ねて2~3話ずつ内容を詰めていきました。

――“障がい者専門風俗嬢”の活動を言語化、漫画化して伝えるにあたって、特に難しかったのはどのようなことでしたか。

あらい:3人の見ているものが一緒だったので、思っていたよりもすっといけたという感覚がありましたね。たとえば“こういうことを描きたいんだけどどう思いますか?”と提案したものに率直な意見を出してもらって、“これだけは描いてほしい”とか“いや、ここはゆずれんばい”みたいに課題を洗い出しては率直に揉みあいをする作業を重ねたのですが、特に大きくモメることもありませんでした。何かあったとしたら、私が一回暴走気味になったことくらいでしょうか(苦笑)。

――具体的にお聞きしてもいいですか。

あらい:私自身が過去に性被害を受けていたことがあり、自分の中で性に関することに対して良くも悪くも特別視をしているところがあったんですね。あとがきにも書かせていただきましたが、“性”を神聖視しすぎている部分もあれば、軽蔑している部分もありました。そんな相反する感情を自分自身でうまく取り扱うことができなくなってしまったときに、おふたりにうまくサポートしてもらったのです。

小西:あらいさんはそれこそ魂を削るような熱量で、ものすごく共感性高く熱心に私の話を受け止めてくださるんですよ。そんなふうにして一生懸命に引き出していただいたエピソードや感情をネームや漫画に落とし込んでいただく作業は、きっと精神的にも大変だったのではないかと思います。

 そんなふうにしてあらいさんが生み出してくださったネームやコンテに対して、編集部のみなさんも多角的な視点から検討やチェックを重ねてくださり、表現に関してもひとつひとつ本当に慎重に繊細に心をくだきました。

“ご家族の置かれた立場”を伝えるエピソードの切実さ

―――本書には17のエピソードが掲載されています。みなさんが特にここを読んでほしいというエピソードをそれぞれ教えてください。

あらい:私は、主人公“つくし”のかつての同僚“いちごちゃん”が登場する10話から13話の「変えられない過去」までのエピソードが個人的にすごく好きですね。

 障がい者専門風俗「またたき」で働き始めたつくしが、いちごちゃんから“人助けしていい気になりたいだけのくせに”という言葉を投げつけられてハッとする場面があるんです。モヤモヤと葛藤するつくしを気分転換に連れ出す「またたき」の代表“しずくさん”が、“別に私だって自分が聖人君子だから障がい者専門風俗嬢をしているわけじゃないのよ”とつくしに伝えるくだりは、描きながらグッときました。

――“しずくさん”は小西さんご自身を投影したキャラクターで、本書では悩み迷う“つくし”をメンターのように導く姿が描かれますよね。実際には、つくしもしずくさんも、小西さんおひとりの内面からつくりあげたキャラクターなのですか。

小西:はい。ですが現実の私はしずくさんほどしっかり頼りがいがある人ではなく、まだまだなんです(笑)。本書ではこれまで私が見たり聞いたり体験してきたことを、しずくさんを通してたくさんお伝えしています。

 そんな中でみなさんにぜひ注目していただきたいのは、本編ラストの17話「偏見を向けられる家族」です。そこでは障がいがある方の“性”に対して、偏見から誤解を受けて苦しまれているご家族の方も実際にいらっしゃることについて触れています。

「輝き製作所」の活動で“障がいがある方の性欲”について発信していることに関しては、本当にご家族それぞれのお気持ちやお考えがあるんです。そんな肉親の方々の様々なお気持ちをおいてきぼりにして自分たちの活動を進めてはならないということは、常日頃思っているところなのです。

 障がいをもつ当事者の方や、そのご家族の想いを大切にしながら明るい未来を目指していくには、新しい価値観をつくっていかなければなりません。この漫画を読んでいただいてどのように感じられたのか、みなさんからぜひ率直なご意見をいただいてみたいと思っています。

――小西さんの活動の“障がい者の性を今よりも身近にすることで、人として当たり前の想いを支える社会をつくりたい”というメッセージを伝えるために、本書の制作でいちばん大切にしていたことは何でしょうか。

あらい:すべてにおいて“決して特別なことではない”ということを念頭に置くようにしました。心も体も大切に扱うのは当然だけれど、特別じゃないごく普通のことだよと。また、教科書漫画にもエロ漫画にもならないテーストであるように、ということも意識しました。

小西:1冊を通していろいろなキャラクターが登場して、それぞれの内面や想いが丁寧に描かれているのですが、本当に“ひとりひとりが誰かにとって大切な存在”であることが伝わってほしいなと、そんな思いも大切にしています。

編集:誰だって知らなければ想像することすら難しいですよね。障がい者は決して知らない存在や遠い存在ではないことを伝えたいというのも目的のひとつで、そのためのストーリー構成を意識しながら、3人一丸となってディスカッションを重ねました。

“障がい者の性”を身近にしていく活動の実際

――ちなみに「輝き製作所」では具体的にどのようなニーズに対応しているのでしょうか。

小西:私たちの事業には“障がいと性に関するカウンセリング”“障がいと性に関する講演”“性教育”の3つの柱があります。別事案として、風営法における無店舗型デリバリーヘルスとして届け出をしている性の介助サービスがあるのですが、実際には介助する側、される側というような形式張ったものではなく、ひとりの人と人として関わり、触れ合うことを大切にする時間をオーダーメイドで提供しています。オンラインで悩み相談だけの方もいらっしゃいますし、デートプランで手をつないだり腕を組んだりすることを望まれる方もいらっしゃいます。内容としては健常者の方と変わりないですよね。

 大きな違いがあるとしたら、性の介助サービスを受けたいと思っても周囲の理解が得られなかったり、金銭的な理由で実現が難しい方たちがたくさんいらっしゃること。現在サービスを受けてくださる方は月に十数名前後、年齢層は20代から60代の方までと幅広いのですが、障がいの種別も、身体障がい、精神、知的、発達障がいと本当に様々です。

――本書には、それぞれの障がいについて理解を深めるためのカウンセリングに力を入れていて、だから予約してから実際にサービスを受けるまで1ヶ月ぐらいかかってしまうこともあると描かれていました。

小西:この間あるお客様から、“自分の障がいのことを事前にしっかり理解してもらえていたので当日も安心して過ごせた”というお声をいただいたことがあったんですよ。待ち合わせ場所まで介護ヘルパーさんの介添えを受けながらいらっしゃった方なので、あとでその言葉をお聞きして本当にほっとしました。

 私たちが障がいのある方に関わる上でいちばん大切にしているのが、“ご本人に対する理解”なんです。私たちの仕事はこれに尽きると言っても過言ではないんですね。カウンセリングでしっかりと伺って、そこから初めて人と人として、男女として関わらせていただくことを大切にしています。もし本書を読んで、一緒に歩んでくれたり支援してくださったりする方が増えてくれたら、とてもうれしい限りです。

(後編に続く)

取材・文=タニハタマユミ

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