障がい者の楽しみの中に、異性や恋愛があってもいい!――人生を楽しくするベクトルを広げる【コミックエッセイ『障がい者専門風俗嬢のわたし』鼎談 後編】

マンガ

更新日:2025/4/2

『障がい者専門風俗嬢のわたし』
(漫画:あらいぴろよ 、原案:小西理恵/KADOKAWA)

“障がい者の性にとことん寄り添う”活動を障がい者専門風俗嬢として展開している小西理恵さんの実体験を原案にした、コミックエッセイ『障がい者専門風俗嬢のわたし』(KADOKAWA)。原案の小西さんと漫画制作のあらいぴろよさん、本書編集担当によるクロストークの後編では、小西さんが現在の活動を始めたきっかけに至った深い想いから、日本における性教育のあり方まで伺った。

私が“障がい者専門風俗嬢”を始めたきっかけ

――小西さんが現在の活動を始められたきっかけは、どのようなものだったのでしょうか。

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小西:もともと夜の仕事の経験をもっていたので、人間の性的な欲求に対して比較的フラットな感覚があったんですね。それが祖母の看取りを経験した後に、介護の仕事をしたいと思い、福祉の世界に入ることになったときに、障がいのある方たちの性の部分、たとえば異性との付き合いや性に関するサポートが全くないということを知って、“なぜなんだろう”とすごく疑問に思ったのが始まりでした。

 祖母は叔母とともに私と妹を女手で育ててくれた人でしたので、祖母の介護にあたるに際して、ちゃんと勉強して福祉の資格を取りたいと学校に通って学んでいたんです。あるときクラスメイトと障がいのある方たちのグループホームに見学に行く機会があり、そこで“毎日なんにも楽しいことがない…”という男性とお会いしまして。障がいのある方に個々に寄り添って楽しくなるものを見つけるベクトルとして、異性とか恋愛があってもいいんじゃないかと思ったのです。

“これは仕事としてちゃんと取り組まなければいけない…”と考えていたときに、本書の4話「息子が性犯罪者にならないために」でも描かれている、“障がいのある息子さんの性欲にご自身の体で応えていらっしゃったお母様の話”を耳にしたんですね。それはお母さんの力だけで頑張ることではないでしょうと。誰にでも当たり前にあるはずのものが、障がい者だからといってないものとされている現状をなんとかしたくて、本当に少しでも力になりたいと思って、「輝き製作所」を法人として立ちあげることに決めました。2020年9月1日のことでした。

――周囲の方はどのような反応でしたか。

小西:応援してくださる方もいれば、“そんなことはするべきじゃないよ”と止める方もいらっしゃって。心配してくださるからこその反対ということもすごく伝わってきたのですが、私にはどうしても見たい世界があったんですね。障がいのある方の性が、当たり前のものとして受け止めてもらえる社会を見たいという。そこに向かっていくためには、いろいろなご意見を受け止めていく過程が必要なんだろうなという覚悟もしました。実際に「輝き製作所」の活動を始めてからもさまざまなことがありました。

――困難なことも多いとお聞きしています。そんな小西さんの活動の支えとなっているものとはなんでしょうか。

小西:活動初期の頃に“自分はこれまで女性と触れ合う機会がなかったけれど、今日生まれて初めて女性の裸を見た”というお客様がいらっしゃったんですね。“なんか今、自分がやっと男になれた気がするよ”とおっしゃっていて。その言葉を聞いて、“これでまた頑張れる!”と大きく励まされたんです。その方がひとりの人間として存在しているということを、私たちは一緒に感じるためにこの時間をつくっている。そんな光景を見たくて活動を続けています。

日本における“性の捉え方”を変える難しさ

――“人として生きている時間を一緒につくっていく”ってすごいですね。みなさんが今感じていらっしゃる最大の課題とは、どのようなことだと思われますか。

あらい:私は“自分の体についての意識”かなと思っています。本書にも出てきますが、私は“性教育の氷河期世代”なんですね。“欲望とか、あまりもたないほうがいいよね”みたいな風潮があった時代で、学校で性教育を詳しく教わってこなかった世代なんです。今思えば当たり前にある性欲や心を否定するという、すごくコストがかかることをしてきました。

 私には小4の息子がいまして“しっかり性教育しないと”、と頭では思うのですが、変に身構えてしまうところがあって…。それが、本書を描き上げるうちに、“性欲”と断定して切り捨てるのではなく“体のこととして”考えて教えていけばいい、と知ったことで、だいぶ楽にできるようになりましたから。本書で性教育の大切さも伝わるといいなと思っています。

小西:私は“性の捉え方”が課題かなと感じています。やっぱりどうしてもいやらしいものというふうに捉えられて、見ないように蓋をされている現状がありますよね。障がいのある方に対してはもう、管理されてしまっているような場面もすごく多い。でも、本来その人の体はその方のもの。その人の心はその方のものですし、自分で決めてもいい権利をみなさんがもっているはずです。他者からの偏見や期待に左右されずにいろいろな選択肢を選ぶ力の身につけ方をつくっていくのも、私たちの担う仕事なのかなと思っています。

編集:編集部から「おうち性教育はじめます」シリーズという、家でお子さんに性教育を教えるための本が出ているのですが、1冊目だけで27万部も増刷されているんです。そうした状況を見ても、私も日本の性教育の遅れが影響しているように感じています。

――WHOでは、障害者の性は福祉の現場で相談に乗ることが推奨されていたり、欧州の一部では性介護士が資格として存在したりするとも耳にします。国民性や文化が異なる日本では難しいのかもしれませんが、同じようにはいかない理由は何が足りないからだと思われますか。

小西:文化や背景が異なることもさることながら、足りないものとして教育の部分が肝にはなってくるのかなと思っています。学校教育でなかなか性教育を進めにくい現状がある中で、じゃあどういう形なら子どもたちに伝えていけるのかということを、子どもに関わる全ての大人たちが“これは生きる上で大切なことだよね”と、ポジティブに考えられるようになれたらいいですね。

編集:漫画という形なら誰でも手に取りやすいですから、コミックエッセイである本書もそのきっかけのひとつになれるかもしれないと思って制作しました。「障がい者の性」や「風俗嬢」というテーマから入っていただくのもありですし、あらいさんに読みやすくつくっていただいているので、漫画から興味をもっていただくこともすごく大切に考えています。

あらい:ちなみに本作では性接触における直接的な描写はしていないのですが、“温度”がわかるような感じの描写を工夫しています。たとえば9話の「家族には内緒」で、重度の脳性麻痺の方がつくしからサービスを受けているときの“温度感”。ここはあえての黒背景に、白い吐息がふわっと浮かぶような構図にしています。

編集:本作でのあらいさんの描写はひとつひとつがとても濃密で、でもほっこりとかわいらしくて。難しいテーマを受け取りやすく描いてくださっているので、そんなあたりも“性の捉え方”に一石投じられたらうれしいですね。

――少し以前の作品になりますが、『37セカンズ』は障がい者の性に触れた作品として、映画もコミックも非常に話題になりましたね。障がいをもつ少女の成長を描いたプライベート感あふれる作品でしたが、本書ではさまざまな障がいをもつ男性が登場し、それぞれのもつ背景や事情にスポットが当てられています。

編集:『37セカンズ』は実際に障がいのある女優さんが主人公を演じられ、その方がとても魅力的で、没入感のあるスタイルが記憶に残る作品でした。本作では小西さんが出会ってきた方々をモチーフにいろいろなエピソードをご紹介することに注力し、健常者の“つくし”が変化し成長していく姿に焦点を当ててみました。なので、お仕事マンガとしてもためになったという声もいただきました。

 ほかに本書の制作時に参考にした関連図書としては、4話で触れている七生養護学校の関連図書に目を通しました。日本の性教育に大きな影響を及ぼしたセンシティブな出来事であるため、当時おられた先生をご紹介いただいて、4話の監修にタッチしていただいたりもしています。

あらい:改めて振り返ってみれば、『障がい者専門風俗嬢のわたし』を制作するにあたっての役割分担はものすごくうまくできていました。小西さんが種をまいて、私が芽を吹かせて、それを中川さんがうまいこと剪定してくださって(笑)。

――絶妙なコンビネーションで難しいテーマを扱ってこられたみなさんに改めてお聞きします。本書の制作を通じて障がいのある方の“性”に対して、どのような想いが生じましたか。

編集:人間らしく生きるための権利、というと少し大仰ですけれども、自分の心に素直に生きるために必要なものではないかなと捉えるようになりました。もちろん、それは正しい知識があってのものですが…。

あらい:自分に触れる安心感かなと思います。気持ちいいとか、あったかいとか、自然に湧き上がってくるもの。人に触れてもらって初めて自分が見える感覚ってあるじゃないですか。誰かがいることによって見えるものみたいな感じだと思うかな私は。

小西:私はもう本当に“生きる根源”だと思っています。生殖行為だけではなく、快楽を得るものだけでもなく、愛する人との愛情のコミュニケーションでもあって、本当にその人にとっての生きるために必要な、すごく意味のあるものというふうに個人的には考えているのですが。実際には、それぞれの人の中に全く違うさまざまな形があるのかなと思っています。

――“根源”というのはすごく深いワードですね。最後に本書のアピールをお願いします。

あらい:すごくあったかいお話です。人ってなんだろうな、安心して生きるってどういうことなんだろうということを、改めて考えるきっかけになってくれる一冊です。

編集:“セックス“というと、最後の行為にフォーカスをされてしまいがちですが、実際にはもっと広い意味合いがあり、“性教育”といっても、一概に体のことだけでなくメンタルの領域も含まれるということもお伝えできればと思っています。読んで後悔はさせません。いろいろなご意見ご感想をお待ちしています。

小西:“障がい者専門風俗”という言葉自体はまだまだマイノリティで特別感があるかもしれません。でも、誰の中にも“つくし”のような葛藤はありますし、“しずく”のような包容力があるはずです。“私たちは性というものをもっている同じ人間で、今この瞬間ここに一緒に生きている”という感覚を受け取っていただけたらすごくうれしいと思っています。

取材・文=タニハタマユミ

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