ついに完結!岩田剛典、田中みな実ら出演の実写ドラマも人気の漫画『あなたがしてくれなくても』。結末を迎えるまでの過程を振り返る【原作者・ハルノ晴インタビュー】
PR 公開日:2025/4/24
2017年に連載が開始した『あなたがしてくれなくても』がついに完結を迎えた。家庭での“セックスレス”が理由で職場の異性に気持ちが向いてしまう男女とその配偶者、四者四様の心情を丁寧に描いた本作。2023年にはテレビドラマ化もされ大きな注目を集めた。
本作の完結への過程、そして各キャラクターへの思い……。漫画家・ハルノ晴氏にたっぷり語ってもらった。

ネームのやりとりは10回以上 担当編集とともに作り上げた物語
――まず、7年間の連載が終了した率直なお気持ちから聞かせてください。
ハルノ晴(以下、ハルノ):もう、「自分が死ぬ前に描き切ることができてよかったな」という気持ちです(笑)。
――ご自身の中でも一番長い連載期間ですよね。
ハルノ:そうなんです。12巻で終わるはずが結局14巻になったので、1~2年くらい予想より伸びました。みちと新名さんが結ばれてからの気持ちの変化をきちんと描かないと、と思って、その部分が伸びた感じです。
――「気持ちの変化を描かないと」と思われた理由は?
ハルノ:みちと新名さんって、結局不倫を経て結ばれた関係ではありますよね。だから「不倫した同士がくっつくの?」と感じられる読者の方もいらっしゃるんじゃないかと。なので「ちゃんと罪悪感を持ってほしい」と思って。罪と罰はセットであるべきだし、傷ついている人はいるわけだから、と思ったんです。
――連載中、一番苦労したのはどんな時ですか?
ハルノ:ずっと苦労しているので、いつと言えないですね(笑)。なかなかネームを通してもらえなくて……(笑)、だからこそいい作品になったと思うんですけど。まずプロットというお話の筋書きみたいな文章を書いて、そこからネーム作業に入る漫画家が多いそうなんです。でも私はネームからいきなり渡すタイプなんですよ。ネームをもとに「これはどういうことですか?」「どうしてこうなったんですか?」というふうに、担当さんから細かく理詰めされるんです。そこで私が「何を描きたいのか」を全部引き出してもらって、「これが描きたい。じゃあどうするか」と整理していくんです。
――あとがきに「悩み過ぎて飛行機で担当さんに会いに行った」というエピソードがあったのを思い出しました。

ハルノ:ありましたね……。でも毎回悩んでいたので、どの時だったか思い出せません(笑)。
編集:楓がみちに直接会いに行くところはすごく悩んだ記憶が……。
ハルノ:その時かな? 多分何十回描き直してもダメで、「こうなったら一度会いましょう」となり飛行機に乗ったんだったと思いますね。弾丸で行って、帰りの飛行機を乗り逃してしまって、当時の担当さんたちと三人で空港を走った思い出があります(笑)。いつも何時間も話していたし、時にはケンカ腰になったりして……。基本7回くらい、多い時は10回以上ネームを描き直すこともありました。
――最初のネームを描くとき「描くことが浮かばない!」ということはないんですか?
ハルノ:それはないですね。私は登場人物の気持ちを軸に描くので。人の気持ちって何千、何万種類もあるじゃないですか。だから浮かばないことはありませんでした。
――今はセックスレスを扱った漫画もドラマも多くありますが、7年前はこの言葉自体の認知度もそれほど高くなくて。いわば『あなたがしてくれなくても』は先駆者的な立ち位置だと思うのですが。
ハルノ:いやいや! 私がこの作品を描いたときにはもういくつかレス漫画はありましたし。でも私が描いた後にすごく増えたような気がします、ひとつのジャンルができたというか。そこにはびっくりしました。
ただ最初はそんなに「セックスレスがテーマで!」みたいな意気込みはなかったんです。「不倫ものを描こう」というところから始まった物語でした。依頼をいただいた「漫画アクション」が青年誌だったので、まず「青年誌で私が何を描けばいいんだろう」と思って。その時に「不倫だったら描けるかも、セックスレス同士の二人が出会ったら面白くない?」と思いつきました。
――不倫をテーマにしようと思ったのはなぜですか?
ハルノ:それは、私が禁断の愛とか恋とか、そういうお話が好きだからです!(笑) その中の一つとして「不倫」というテーマがありました。母がそういうドラマをよく観ていたので、身近だったんだと思います。
――でもテーマを不倫にするとしたら、例えば楓がみちの存在に気づいたときに、もっと責めたりドロドロ展開することもできたと思うのですが、そっちにもっていかなかったのはなぜですか?
ハルノ:私の作家性として、ドロドロ展開は武器じゃないと思っていて。派手な出来事を起こすより、キャラクターの心情を丁寧に描くことを重視しているからですね。
――確かに、登場人物の心情がリアルだったからこそ、作品にのめり込んでいったんだと思います。
ハルノ:リアルとおっしゃっていただけてうれしいです。漫画だとしても逸脱した行動はさせたくなくて。みんながやるような行動の中で何ができるのかを考えていつも描いていました。