祖母の戸籍は事実と異なっていた。他県の住職が語ってくれた祖母出生の秘密/家系図つくってみませんか?
公開日:2025/4/22
『家系図つくってみませんか?』(丸山学/ポプラ社)第4回【全6回】
あなたは、自分のひいおじいちゃんが何をした人か知っていますか? 家系図作成への関心が高まっている今、自分のルーツをたどろうという人が増えています。年間約100件の依頼を請け負う行政書士が、わずかな手がかりを元にルーツをたどる実例や、個人で作る際のポイントを紹介。戸籍取得から菩提寺探訪、古文書のよみときまで、わかりやすく解説した『家系図つくってみませんか?』をお届けします。

(丸山学/ポプラ社)
お寺のご住職がしてくれた貴重な話
私は多美の実家・島内家の調査と並行して、塚田家の調査も進めていました。
依頼人の塚田季明さんとしては、実は塚田拓郎が本当の祖父ではないとわかったものの、自身も「塚田」を名乗っている以上、やはり塚田家も重要なルーツであり自身の子どもにも塚田家がどんな家であるか伝えたいという想いがあります。
私のほうでは塚田拓郎のことが記載された史料をいくつか見つけることができ、どのような仕事をしていたのかも何となくわかってきました。しかし、それ以上のこと(その上の代のお名前や塚田家が元々はどこに居住していたか等)は全然わからずに困り果てていました。
そうした中、依頼人のご親族の中から「そういえば、多美はB県の延命寺というお寺と関係があるらしい。そちらのお寺の住職は安本さんという方が代々務めているようだ」というお話が出てきました。
実は先祖調査を始めると、ご親族の方もだんだんと「そういえば昔、こんな話を聞いたことがある」と思い出されることがあります。ですから、先祖調査・家系図作成にあたってはご親族に丁寧に聞き取りをすることが重要になります。
「B県の延命寺」という話が出てきたものの、塚田家では現在、そのお寺とも、安本さんというご住職ともお付き合いがある訳ではありません。いったいどんな関係があるというのでしょうか? そもそも現在の塚田家はB県とはまったくつながりがありません。
こうした場合はとにかく先方にお尋ねしてみるしかありません。
調べてみると、確かにB県には延命寺があり、安本姓の方がご住職を務められているようですので、私は同寺宛てに事情を記した手紙を書いてみました。
とはいえ、どんな関係かもよくわからない状況であり、先方もこのような手紙を受け取っても困惑するであろうと思いつつ、系図も含めてできるだけの資料を添えて「いったいどのような関係にあるのか不明な状態でのお尋ねとなり誠に恐縮ですが……」との文言を認めました。
そして、手紙を出したあとに恐る恐る延命寺に電話をかけてみました。
安本ご住職は手紙をよく読んでくださり、開口一番「ああ、多美さんの話ですよね」と切り出してくださったのです。
私としては「いったい何の話でしょうか?」といわれてしまう覚悟でいたので、そのお返事にはびっくりすると共にすべてが解明されていく予感がしました。
安本住職は次のような話をしてくださいました。
・私も母親から聞いた話ではありますが、私の祖父・安本賢尚には3人の妻がいたそうです。籍を入れていたのかどうかは不明ですが。
・その2番目の妻との間にできた子が多美さんという方だそうです。
・多美さんは戦前には何度かうちにもお参りに来ていたそうです。
・祖父の2番目の妻のお名前もわからないですし、多美さんが戸籍上では島内家の娘になっているということも知りませんでした。
・「大田八十吉」という方についてはまったくお聞きしたことはありません。
・3番目の妻が私の祖母(良枝)にあたります。その祖母の実家はC県の「塚田」という家です。
多美のことがわかってきただけでも驚きましたが、唐突に「塚田」という名字が出てきて私は思わず「えっ、塚田姓ですか?」と聞き返してしまいました。
電話口の私は驚きながらも頭の中で一生懸命に話を整理しました。
まず、多美の実の父親は延命寺の現ご住職(安本姓)の祖父であり、その2番目の妻との間の子であるといいます。ということは、多美は、本来は安本家の娘ということになります。
おそらく、何らかの事情があり安本家の娘として出生届を出せず、ご住職の祖父と親交のあったA県の島内家の娘として出生届を出したのでしょう。
現代では事実と異なる出生届を出すことは難しいですが、明治時代だとそのようなこともままあったようで「本当は違うんだけど、戸籍上はこの夫婦の子として届出をしたそうです」というような話を時折聞きます。
ご住職の話を踏まえた関係を図にすると図表12のようになります。

そうか、形ばかり島内家の子として届出をしたものの、実際には島内家では生活していなかったので多美は島内家側ではまったくといっていいほど覚えている人がいないのか……。私は島内家の調査で感じたフワフワした感覚がこのためであったのだとようやく納得できました。
それはそうとして、ご住職の祖母にあたるのが3番目の妻(良枝)であり、その実家が塚田家であるといいます。私はなぜかこの時点で依頼人の塚田季明さんが祖父と信じてきた塚田拓郎はおそらくこの塚田家の人なのであろうと直観していました。
ただし、ご住職のほうでも祖母の実家であるC県の塚田家とは今は交流もなく、確認が取れないとのこと。C県の塚田家のことを調べなければ……、そう思った私は思わずご住職に「ご住職の安本家の戸籍をさかのぼって取得させていただけませんか? ご祖父の2番目の妻のこと、そして3番目の妻であるご祖母の塚田家のことをよく知りたいのです」と、お願いしていました。
戸籍は、プライバシーの塊といえます。
それを電話で初めて話をしただけの私がお願いするのは大変失礼かと思いましたが、絶対に「塚田拓郎」と出会えると確信していた私の口は勝手に動いていました。
安本住職は「いいですよ」とご快諾くださり、戸籍取得のための私宛ての委任状に署名・押印をしていただくことになりました。