二宮和也「視聴率や数字で見えてこない部分に、ものすごいマンパワーが動いている」。赤ちゃん向け劇場作品の声優を務めて知る“朝の30分”の重要さ【『シナぷしゅ THE MOVIE』インタビュー後編】
公開日:2025/5/15

映画『シナぷしゅ THE MOVIE ぷしゅほっぺダンシングPARTY』で新キャラクター「ぱるてぃ」を演じた二宮和也さん。本作は、テレ東系で放送中の乳幼児向け番組『シナぷしゅ』(毎週月~金曜あさ7時30分)の劇場版第2弾であり、"赤ちゃんが初めて映画館で観る映画"をコンセプトに制作された。
インタビューでは、二宮さんが『シナぷしゅ』という作品が持つ意義や、子どもたちにとっての映画体験の大切さについて深く語ってくれた。"朝の30分"が持つ価値、そして『シナぷしゅ』を通じて感じた新たなキャリアの可能性とは?
前後編にわたってお届けする本記事の後編では、インタビューの内容を中心に、赤ちゃん向け作品だからこそ生まれる演技の工夫や、視聴率や数字では測れない“映画館での体験”の価値について掘り下げていく。
赤ちゃん向け作品ならではの演技。伝わりやすさの工夫とは
『シナぷしゅ』は、赤ちゃんに適切で良質なコンテンツを提供するため、子育て中の社員たちが中心となり制作がスタートされた背景がある。テレ東系列6局ネットで毎週月~金、あさ7時30分~8時00分に放映されている30分番組だ。
二宮:(30分という時間は)子どもたちが集中できる長さであり、親御さんにとってはある程度自由に過ごせる時間になる。番組本編内にCMが挟まれない作りになっていて、それを許してくれた企業の方々の懐の広さというか、「本当はCMを入れたいと思うのがあたりまえなのに、それを了承しているんだな」と思うと、すごく感銘を受けました。
また、「30分間、どうやって子どもたちをテレビの前に集中させるか」ということをものすごく考え抜いて作られている番組なんだと改めて感じました。キャラクターもどんどん増えていて、好きなキャラクターが出てくるときもあれば、出てこないときもある。「今日はこの曲なんだ」「このキャラクターが登場するんだ」といった変化も含めて、子どもたちにとって大切な学びになっていると思います。
僕が普段出演させてもらっているようなバラエティ番組などとは、また違った形態ですよね。それを支えてくれている視聴者の方々の理解もあって成り立っているんだなと、改めて学びがありました。
会場からは、印象に残っているキャラクターについての質問も。
二宮:この映画は本当にたくさんのクリエイターが携わっていますが、作品の中心にいるのは、やっぱり「ぷしゅぷしゅ」なんですよね。
『シナぷしゅ』は、俳優とか子役とか、そういう枠を超えて作られているんです。特に、子どもたちのピュアな感性は、大人が押し付けるものではなく自然と表れるもの。今回の映画からも、そのピュアさを強く感じました。
大人は経験が増えて表現の引き出しが多くなる分、どうしても複雑になりがちです。でも、複雑なことを一切せずに、ただ純粋に「ぷしゅぷしゅ」でいられることが魅力なんだと改めて感じました。
そのおかげで周りのキャラクターがお祭り感を出せるし、「ぷしゅぷしゅ」が自由に動ける環境があるからこそ、作品として成立しているんです。
なくしたほっぺを探すだけで40分の映画が成り立つって、冷静に考えるとすごいことじゃないですか(笑)。もちろん、作品の構成や演出の素晴らしさもありますが、「ぷしゅぷしゅ」の存在自体がすごいなと、改めて実感しましたね。

『シナぷしゅ』で見つけた新たなキャリアの可能性
『シナぷしゅ』に参加したことで、「新たな扉が開いた」と話す二宮さん。今後のキャリアにも変化がありそうだ。
二宮:今回、自分のキャリアの中で未知の領域に触れた感覚があります。もしかしたら自分が知らないだけで、もっと面白い作品があるのかもしれないと気づかされました。
本作での経験は、新しい扉を開けてくれたような気がします。だからこそ、これまであまり馴染みのなかったジャンルにも挑戦してみたいですね。もちろん、作品としての確かなクオリティが前提ですけども。
たとえば、言葉や言語に特化した作品も面白いなと思います。日本語に限らず、何か別の言語だったり、今回のように一つのワードでさまざまな感情を表現するものだったりも興味深いですね。
長編アニメーションのような王道作品ももちろん魅力的ですが、短編だからこそできる表現の面白さも実感しましたね。
"映画体験"が子どもたちの世界をどう広げるのか
本作について清水貴栄監督は、「ぷしゅぷしゅと旅行に行く気分になれる映画」と話していた。
二宮:「ぷしゅぷしゅ」と一緒に旅行に行くような感覚になる、というのはすごく大事なことだと思っています。家族の形はそれぞれなので一概には言えませんが、子どもたちが「映画館で観る」という成功体験を得られるのは、とても大きなことですよね。
また、中には「旅行に行ってみたい!」と思う子もいるかもしれません。「ぷしゅぷしゅ」と同じ場所に行ってみたいとか、同じことをしてみたいとか。単に「映画が楽しかった」というだけではなく、次のステップへとつながるきっかけになるのが、この作品の魅力のひとつだと思います。
もちろん、「やっぱり家がいい!」という子もいるでしょうし、映画館で大騒ぎしちゃって、親御さんがぐったりして帰るパターンもあると思います(笑)。でも、いろんな家族の受け取り方がある中で、単に「楽しかったね」で終わるのではなく、「旅行に行ってみたい!」という興味につながったり、「旅行に行くなら飛行機に乗るんだよ」「出発時間を守らなきゃいけないんだよ」といった学びのきっかけになったりする。
最初は単純に「ぷしゅぷしゅが旅行する映画なんだな」と思っていたんです。でも、改めて客観的に見てみると、この映画を観た子どもたちはいろんな想像を膨らませることで、自然と次のステップへ進むきっかけを得られるんじゃないかなと感じました。
「映画館デビューにぴったりの作品なので、ぜひお子さんと一緒に楽しんでほしい」と二宮さん。 そして、「今回の作品は、観客のリアクションがダイレクトに伝わると思うので、ぜひ映画館で観させてもらおうと思っています」と語り、本作ならではのライブ感に期待を寄せた。

インタビューで聞く、二宮和也が考える『シナぷしゅ』の存在意義
全体の質疑応答後、二宮さんにじっくりとお話を伺った。
――統括プロデューサー・飯田さんは以前、「民放で子ども向けアニメが少ないのは、4歳以上でないと視聴率が測れず、スポンサーがつきにくいから」というお話しされていました。その中でこの番組がチャレンジしたことはすごいことだと思います。長年業界にいる二宮さんも、スポンサーの重要性を理解されていると思いますが、この挑戦についてどう感じていますか?
二宮:この番組が成り立っているのは、「応援したい」「支えたい」と思ってくれるスポンサーがいるおかげです。ただ、企業にとっては「利益がないと踏み出せない」というのが現実ですよね。だからこそ、「子どもたちのためになるなら作ってください」と言ってくれる企業の存在は、本当にすごいことだと思います。
子どものために協力してくれる企業があるのは、ありがたいし、とても意義のあることですよね。
さらに言えば、子どもが集中できる時間帯を朝に設定しているのも、とても効果的だと思います。大人でも、集中力が続くのは30分くらいと言われていますよね。それを朝の時間帯に持ってくることで、より意味のある時間になっていると思います。
朝は親もやることがいっぱいあって忙しいじゃないですか。そんな中で、子どもが30分じっとしてくれるというのは、親にとっては2〜3時間分の価値があるようなもので(笑)。
この作品は単に「ぷしゅぷしゅがかわいい」とか「このキャラが好き」というだけではなく、番組自体が親子の生活をサポートするものになっているんだなと感じますね。

――『シナぷしゅ』のYouTubeは24時間ループ再生されていて、一度も視聴数がゼロになったことがないそうですね。夜中の2時や3時でも視聴者がいると聞いて驚きました。24時間ループ再生されているYouTubeの影響についてどう思いますか?
二宮:それを聞いて、「休まらないんだな」って思いました(笑)。僕らの親世代って、どうやって子どもを寝かしつけてたんだろう? って考えちゃいますよね。
今の時代は、いろんなツールがあって選択肢もたくさんあるけど、昔はそんなものなかったわけで。それを思うと、今の子どもたちは本当に大事に育てられているんだなって感じます。だからこそ、こういう番組の存在意義があるんだろうなと。
視聴率や数字だけでは見えてこない部分ですが、これだけ継続的に視聴されているということは、多くの家庭で必要とされているということですよね。ものすごいマンパワーが動いているんだなと、改めて感じました。
――飯田さんは「制作する方々には、よく寝て、おいしいものを食べて、健康な状態で作品を作ってほしい」と話しています。二宮さんは、制作スタッフのコンディションが作品に影響すると思いますか?
二宮:思いますね。それはもう間違いなく。
飯田さんの考え方って、すごく人間味があって、誠実で、まんべんなくいろんな人に刺さるような番組を生み出していると思うんです。だから、こういう作品がなくなってほしくないし、これからも続いていってほしいなと思います。
でも一方で、「3時間しか寝てない」みたいなカリカリの状態で作られたドラマも、それはそれで面白かったりするんですよね(笑)。
だから、飯田さんのように、制作環境を大切にしている人たちがいることで、逆に、ゾンビ状態で作られた作品にも価値が生まれるというか(笑)。いろんな制作スタイルがあるからこそ、僕たちユーザーは多様なエンタメを楽しめるんだろうなと思いますね。
今回の取材を通じて、二宮さんが本作に込めた想いや、映画館で観ることの価値、そして子どもたちにとっての映画体験の大切さが改めて伝わってきた。映画館という特別な空間で、大きなスクリーンを前にワクワクしながら映画を観ること。それが子どもたちにとって新たな発見や冒険への一歩になるかもしれない。
『シナぷしゅ THE MOVIE ぷしゅほっぺダンシングPARTY』は、親子で楽しめる作品であると同時に、映画館デビューに最適な作品でもある。映画を観ること自体が貴重な体験となり、その先の“次のステップ”へとつながるきっかけとなる作品だ。ぜひ、親子で映画館へ足を運び、スクリーンの中で広がる「ぷしゅぷしゅの世界」を体感してほしい。

取材=金沢俊吾、篠原舞(ネゴト)、撮影=コウユウシエン