人生を変えたマンガ、ありますか?最古参強火オタクと漫画家が紡ぐ壮大なSF青春ドラマ『星描けるぼくら』【書評】

マンガ

PR 公開日:2025/4/23

星描けるぼくら梨川リサ/講談社

 マンガを愛する人なら「この作品のおかげで人生が変わった」と熱い思いを抱く作品がひとつは存在するのではないだろうか。特に、子どもの頃に出会っていたく感銘を受けたマンガがある場合、それからどんなに素晴らしい作品を読んだとしても、その感動を超えることはなかなかない。そんなマンガを愛する人たちなら身に覚えのあるような感情が『星描けるぼくら』(梨川リサ/講談社)にはちりばめられている。

 主人公は、万年くすぶっている漫画家志望の25歳の男、ペンネームは三世界(さんせかい)ねこ。ある日、編集者との打ち合わせを終えて帰宅すると、家のなかに見知らぬ男が立っていた。三世界のことを「神」と呼ぶ謎の男は、彼の大ファンであり、特に幼少期に読んだ『ムゲンミライ』のおかげで運命が変わったのだという。だが、『ムゲンミライ」とは、三世界が小学生の頃に自由帳に描いていたマンガである。一般の読者が知り得るはずがないのだ。では、この謎の男は小学校の同級生?だとしても今更なんのために姿を現したのか?こうして漫画家志望の男と、不思議な最古参オタク・ノラの世にも奇妙な交流が始まる。

 作者のことを問答無用で「先生」「神」呼びしたり、幼少期に読んだ作品をずっと愛し続け、いまだ重めの感情を抱いているノラはなんだか「同志よ!」と言いたくなるほど既視感がある。また、「この作品のおかげで運命が変わったんです」「あなたが生み出す物語はムゲンの光です」と大真面目に言うシーンもオタクとしては「わかる」の一言に尽きる。時に、続きを待ち望んでいるという思いを「神の信託を待つ身」と表現する秀逸な語彙に思わずくすりとしながらも、マンガを愛する人たちならノラに自分を重ね、不思議な熱と連帯を覚えるのではないだろうか。

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 そんなノラの一挙一動がオタクにとっては刺さりまくりの本作だが、読み進めていくうちに「運命が変わった」ってそういう意味だったの?!と、突然のSF的展開に驚かされる。そして、そこから繰り広げられる異世界交流ギャグの応酬たるや。もちろん、根底にはノラの“三世界ねこリスペクト”があるのだが、徐々に明かされていく彼の正体や『ムゲンミライ』を推し続けている本当の理由……。読み進めていくと、オタク大共感以外の新たな彩りをもって私たちの感情を大きく揺さぶってくる。

 漫画家志望の男と最古参オタクのコメディからSFファンタジーと、まるで星を駆ける宇宙船のごとき勢いで、壮大な物語を紡いでいく『星描けるぼくら』。「この作品のおかげで人生が変わった」とマンガに対して熱い思いを抱いた時の初期衝動を思い出させてくれると同時に、1枚の紙に描かれた物語が宇宙、いや無限の未来まで連れて行ってくれる上にこんなにも多様な角度から心を打つ……。改めてマンガの偉大さを実感させられる傑作だ。マンガを愛する全ての人に全力でおすすめしたい。

文=ちゃんめい

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