ずとまよ、AdoらのMVも担当するイラストレーター・sakiyamaが描くネコ好きにはたまらないシュールギャグ『ネコサツ』【書評】

マンガ

PR 公開日:2025/4/23

ネコサツsakiyama/講談社

 ダークな雰囲気の中に毒を含ませた作風が人気のイラストレーター・sakiyama(サキヤマ)氏。ずっと真夜中でいいのに。やAdo等のMVアニメーションや、アパレルとのコラボなど多方面で活躍する彼女が2023年から「モーニング・ツー」(講談社)で不定期連載してきた『ネコサツ』は、シュールな世界観と不思議な温度感のビジュアルが目を引く、不条理ギャグ漫画だ。

 猫好きの警察官・笹見(ササミ)は、野良猫に気を取られて逃走中の強盗犯を取り逃がしてしまう。勤続10年目にして左遷された先は、謎多き離島「サテツ島」。自然に囲まれたのどかな島暮らしとは程遠い、ホラー映画のような廃墟だらけの寂れた島の交番で彼を待っていたのは、かわいい猫の「ブリちゃん」先輩。

 警察の制服姿にブリティッシュショートヘアの頭を乗せたこの不思議な先輩は、2019年にsakiyama氏が同人誌で発表した短編『葬歌』に登場し、「冷やかしならぶっころすにゃ」という不穏な言動から「ぶっころにゃ」と呼ばれているキャラクター。本作でも自由奔放な言動で周囲を翻弄するが、可愛い顔をして我が道を行くその行動スタイルは、いわば猫そのもの。ブリちゃん先輩が時折のぞかせる猫らしい姿の数々は、猫好きの読者にはたまらないだろう。笹見もすっかりそのギャップにやられて自身の置かれた不可思議な状況を受け入れてしまう。

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 ブリちゃん先輩の他にも、長毛種の同僚「ラグちゃん」や、頭だけ野菜の姿をした人間、レストランで働くネズミなどおかしな住人たちが普通の人間と交じって暮らしているが、誰一人そこに疑問を感じていない。赴任した当初は戸惑っていた笹見も、2匹(?)の同僚と職場を共にするうちに、すっかり島に馴染んで日々の仕事をこなすようになる。

 とはいえ、都会に比べて離島は平和そのもの。先輩と一緒に「ネズミ捕り」をしたり、銭湯にいったり……のどかな日常の中で起きる不条理な事件と、猫たちに振り回される笹見の様子が楽しく、読むごとに癒される。こんな環境なら極度の猫好きである主人公でなくとも、島から離れたくなくなってしまうだろう。

 イラストレーターとして活躍するsakiyama氏が描くビジュアルも本作の大きな魅力だ。フリーハンドで味のある描線と、各話ごとに異なる差し色というアートスタイルで描かれた画面の中を二足歩行の猫が闊歩する様は、どこか不条理漫画の大家・つげ義春氏の世界を彷彿とさせる。優しいが暖かくはない筆致で、シュールかつシニカルな物語を描き出す作品性は、まるでウェス・アンダーソン監督の映画を観ているかのような気分にさせてくれる。

 sakiyama氏自身は、会社員時代にネガティブな感情を吐き出すためイラストを描き始めたという。それゆえダークで不気味な表現を好む傾向にあり、本作のようなギャグ漫画を描くことに驚くファンもいたかもしれない。実際、本作の前に発表した読切『ステキ絶望タイマー』もダークな内面をテーマにする作品だった。だが、漫画においてホラーとギャグは表裏一体のもの。毒のある表現を得意とするsakiyama氏が初連載でギャグ漫画を手がけたことは不思議ではない。本作を読めば、彼女がこの先、多彩な表現活動の中でどんな漫画を読ませてくれるのか楽しみになるはずだ。

文=平岩真輔

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