『孤独のグルメ』原作者・久住昌之が語る「ドラマと共通する"はしゃがない"魅力」。谷口ジローの絵が持つ「静けさ」と松重豊の「佇まい」《『それぞれの孤独のグルメ』Blu-ray&DVD発売記念インタビュー》
PR 公開日:2025/4/30

原作・久住昌之、作画・谷口ジローにより、1994年に誕生した漫画『孤独のグルメ』(扶桑社文庫)。主人公・井之頭五郎を松重豊が演じるドラマ版は、2012年に放送がスタートし、2025年には『劇映画 孤独のグルメ』として映画化まで果たした。一貫して井之頭五郎の「食」を描き続けるなか、テレビ東京開局60周年連続ドラマとして制作された特別編『それぞれの孤独のグルメ』では、さまざまな人物の「食」が井之頭五郎の物語と少しずつ交わっていくオムニバス形式のドラマで新たな展開を見せた。これまでと同様に劇中の音楽を担当するほか、本人役で出演もした原作者・久住昌之さんに、改めてドラマと原作『孤独のグルメ』について話を訊いた。
――『それぞれの孤独のグルメ』という企画を聞いて、どんな印象を持ちましたか。

久住昌之さん(以下、久住):原作はあくまで主人公がひとりだから、他の人の物語をゼロから作るとなるとどうなるのかなあと思いましたね。面白くなるかはわからなかったけど、松重さんの提案だったし、松重さんプロデュースならいいだろうということで。完成したものを観て、やっぱり松重さんがいればちゃんと『孤独のグルメ』のスピンオフになるんだなと思いました。今までのドラマでもやっていたように台本はチェックしましたけど、松重さん以外は誰がどんなふうに演じるかわからなかったから、最低限のアカ入れだったんですよ。でも、サイドの人が変に笑わせようともしていなかったし、面白かったです。

――松重さんには任せられるという信頼関係ができているんですね。
久住:(ドラマは)もう10年やってるからね。松重さんがいればなんとかなる。映画だって、松重さんだからできたことだと思いますよ。よくこの世界観を保ったまま映画にできたものだと思って……松重さん、(『孤独のグルメ』を)映画にするとしたらここを膨らまそうとか、演出や演技を10年以上かけて練習していたんだなと(笑)。
――原作と実写化の理想的な関係ですよね。『それぞれ~』では、久住さんご自身も第11話に出演されていて。実際によく行くお店で撮影したんですか?
久住:吉祥寺の美舟という、本当に20代の頃から知ってるお店です。ゲスト出演の江口(寿史)さんも40年以上知っている仲だから、みんな知り合いみたいな撮影でした。ほかの話数でも、ちゃんと『孤独のグルメ』らしいいい店を見つけているなあと思いました。
――スピンオフに映画にと広がっていきますが、久住さんとしてはドラマと原作の距離感は変わってきましたか?
久住:いや、そこは最初から別ものというか、離れている感覚なので変わらないですね。
――では逆に、ドラマと原作で共通しているところと言うと?
久住:静かなところかな。『孤独のグルメ』は漫画としても静かな漫画で、ドラマとしても基本静かなドラマだから。多くのテレビがはしゃいでいるから、このドラマくらいははしゃがないでいるのがいいんじゃないかな、という気持ちは最初からありますね。僕の原作というのももちろんあるけど、やっぱり漫画は谷口ジローさんの絵があってこそなので。谷口さんの絵の持っているあの静けさみたいなものがなくなると『孤独のグルメ』ではなくなってしまう。台本にアカ入れをする時、表情だけで見せたほうがいいと思って、食べている最中のセリフをカットすることも多いです。