『孤独のグルメ』原作者・久住昌之が語る「ドラマと共通する"はしゃがない"魅力」。谷口ジローの絵が持つ「静けさ」と松重豊の「佇まい」《『それぞれの孤独のグルメ』Blu-ray&DVD発売記念インタビュー》

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PR 公開日:2025/4/30

――若い世代を意識して、みたいなこともしないですか。

久住:ないです。そもそも、何かを表現したいというより、楽しんでいきたいんですよ。僕の場合は原作が多いから、まずは作画する人が楽しんで描ける原作を考えることが大事。「これだったらワクワクしながら描いてくれるんじゃないかな」という気持ちは、僕が“泉昌之”という名前でデビューした時からありますね。作画の泉さんとふたりで描いていたんだけど、面白い話ができないとセリフで笑わせようとしてしまうんですよ。そうすると、泉さんから「今回セリフが多くて絵が少ない」と言われて、「あっ、ちゃんと絵で見せるところを作らないと漫画は面白くないんだな」と気づいた。

 泉さんには本当に助けられて……初めて週刊誌で連載した『ダンドリくん』でも、僕が週刊連載は難しいから断ろうと思っていたら、「週刊の仕事をもらえるチャンスなんて滅多にないんだから、絶対やったほうがいい。面白くなかったら俺の絵で面白くするから」と言ってくれて、すごく肩の力が抜けたのを覚えています。原作の力は3分1で、絵が3分2くらいのものなんだなという考えになって、その分、描いてもらう時に「よし、やるか」と腕まくりをさせるような原作を作ることが大事だと思うようになりました。

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――なるほど。久住さんが「この部分は任せよう」と託すスタンスがあるからこそ、ドラマも広がっていったのかもしれないですね。

久住:いつも半分託して、というのは良かったと思う。『それぞれ~』でも、松重さんに任せる部分は任せる。そのうえで、できた映像にこういう音楽をつけたら違う深みが出せるんじゃないかということで、今までにない音楽にしたりして。

――投げて、返ってきたものを受け止めて、もう一回投げてできあがっていく。キャッチボールのようですね。

久住:そういうところは本当にあります。漫画の『孤独のグルメ』も、ファンの人が国会図書館まで行って『月刊PANJA』に掲載された初回をコピーしてきたら、単行本で面白いと言われているセリフが連載の時にはことごとくなくて驚いたと言っていました。そんなのわざわざ見なくていいよって話なんだけど(笑)、そういうセリフは全部単行本になった時に直した部分だったという。

――キャッチボールを経て変わっていったということですか。

久住:そう。連載をやっていくなかで作品の面白さに気づいたり、「違うセリフのほうが谷口さんの絵が面白く見える」「ここは絵で描いてるからいらない」みたいなことで変わっていくんです。

――変わらない部分と変わっていく部分があるというのが面白いですね。久住さんのなかで、今後『孤独のグルメ』がどう続いていくのか、イメージしていたりするんですか?

久住:いや、全然わからないです。毎回これで終わってもいいと思ってやっているし、むしろ「よくまだやってるよ」とも思うし(笑)。

――(笑)漫画は途中で終わっている状態ですが、もし最終回を描くとしたら……と考えたことはあります?

久住:ないです、全然ない。ドラマは飲食店があれば続けられるし、それこそ飲食店に最終回なんてないわけじゃない? きっと、だんだんお店の人が歳とってきて、「もうダメだな」で終わる。たぶん、人生もそうでしょう。谷口さんが亡くなった時も……もちろんすごくショックだったけど、そういうものなんだなと思ったんです。原作ができていて描いていない話があることも含めて、“いつだって人生は途中で終わるんだよ”ということなのかな、と。最終回があって、大団円があるような人生なんてないんじゃないですか。

――今も五郎さんはどこかの街でお店を探しながら歩いているのかなと想像できますもんね。

久住:漫画はそうやって生き続けていくことができるから。終わらせる必要はなくて、いつまでもずっと主人公は生きていくものなんだと思う。

――そうですよね。松重さんもまだやってくれると信じています。

久住:はははは! そう思わせるとは、やっぱりすごい役者だなあ。でも、間があくとおじいさんになったなと思われるから(笑)、やっぱり年に1回くらいあるといいかもしれないね。

取材・文=後藤寛子 撮影=後藤利江
(C) 2024 久住昌之谷口ジロー・fusosha/テレビ東京

それぞれの孤独のグルメ』(Blu-ray&DVD)
公式サイト: https://www.tv-tokyo.co.jp/kodokunogurume_sorezore/bluray/

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