摂食障害で体重33kg。精神科病棟に入院した女子高生が見つけた、“もうひとつの青春”【書評】

マンガ

公開日:2025/5/1

 摂食障害となり精神科病棟に入院することになった女子高生が、閉ざされた空間の中で“生きること”と向き合っていくセミフィクション『精神科病棟の青春 あるいは高校時代の特別な1年間について』(もつお/KADOKAWA)。

 
 スマホもテレビも禁止、面会すら許されない特殊な環境の中で、それでも少女の心は前へと進んでいく。

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 精神科病棟と聞くと、閉鎖的で重苦しいイメージを抱く人も多いだろう。そこにはたしかに苦悩があり、孤独がある。だが本作では、精神科病棟を“ただ苦しいだけの場所”として描かない。そこには悩みを分かち合い、互いを見守る優しさが満ちているのだ。

 主人公のミモリは、体重わずか33kg。極端な食事制限から摂食障害となった女子高生だ。彼女が精神科病棟の中で少しずつ周囲とつながっていく過程は、まるで青春映画のようにまぶしい。傷を抱えた者同士だからこそ生まれるつながりが、この作品には静かに、けれど力強く描かれている。

 入院患者同士で交わされるのは、「その靴かわいいね」といった何気ない褒め言葉。それは精神科病棟が“治療のため”だけにあるのではなく、“お互いを支え合う居場所”でもあることを示している。

 本作では摂食障害だけでなく、強迫性障害や希死念慮など、さまざまな悩みを抱える人が登場する。彼らの姿は重く感じるどころか、むしろ“人間らしい希望”に満ちている。心の病と闘う姿は過酷だが、その中にも友情や温もり、時に笑いすらあり、読むほどに「人と人がつながることの尊さ」が胸に迫ってくる。

 本作は著者・もつおさん自身の実体験をもとに綴られた物語だ。だからこそ、描写の一つひとつに説得力があり、読む者の心を打つ。精神疾患や入院生活に対する偏見を取り払うきっかけにもなるだろう。

 本作を読み終え思うのは、「誰にでも、誰かの支えが必要なときがある」ということ。

 心の痛みは目に見えない。見えないからこそ、想像する力が必要だ。“生きづらさ”を抱えるすべての人に向けて。あるいは、そんな誰かの隣にいる人に。「生きるって、こんなにも不器用で、こんなにも温かい」と思わせてくれる、静かで力強い青春の記録だ。

文=ネゴト / すずかん

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