古田新太さんが選んだ1冊は?「演劇に関する多くを学んだ師の日記。日本の演劇界の財産と言える一冊」

あの人と本の話 and more

公開日:2025/5/14

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2025年6月号からの転載です。

 毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、古田新太さん。

(取材・文=倉田モトキ 写真=TOWA)

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「もう、全部がぶっ飛んでる(笑)。映画と芝居に明け暮れ、恋は拗らせ、酒に溺れ。これが高校生の日記だっていうんだから、最高におもしろい」

 古田さんの推薦本は、かつて演劇界に多大な影響を与えた秋浜悟史の高校時代の日記をまとめた一冊だ。

「“東の蜷川(幸雄)、西の秋浜”と称された方で。オイラが大阪芸術大学2年の時にミュージカルコースが新設され、秋浜先生が講師になるというので、師事したくてすぐ転科しました。先生の演出助手になり、ずっと隣で芝居を学んでましたね」

 二人の師弟関係は劇団☆新感線で活躍するようになってからも続いた。

「芝居を観に来ては、『お前らはいつまで経っても馬鹿だな』と笑ってくれる。その言葉がご褒美で。でもこの本を読んだら、先生も相当な馬鹿だったんだと合点がいって(笑)。思想、思考、行動の全部が常軌を逸している。石川啄木の再来と言われながら、啄木の否定につながることを書いていたり。けど、その文面すら文学的。こんな人がいたということを多くの演劇人に知ってほしいですね。先生の生き方を継承する必要はないけど、誰かが伝え続けていかなければいけない。その意味で、この本は日本の演劇界の財産だと言えます」

 KERA(ケラリーノ・サンドロヴィッチ)と緒川たまきによる演劇ユニット・ケムリ研究室の旗揚げ作品『ベイジルタウンの女神』が再演。古田さんは今回、初登場を飾る。

「コロナ禍で誰もが疲弊していた頃に作られた舞台なので、内容がハートフル。KERAさんとはふざけた芝居ばかり作ってきたこともあり、当時は客席で、“KERAっち、どうした!?”って思いました(笑)」

 舞台となっているのは、とある貧民街。緒川演じる女性社長が土地を買収するため、素性を隠してこの地を訪れるところから物語は始まる。

「格差がある中で繰り広げられる淡い恋を楽しんでいただければと思います。それに、意外と悪人もたくさん出てくるんですよね。でもそれは、みんな生きるために必死だからで。だから最後にはもやっとした感情が残らず、気持ちよく感動できる。そこがこの作品のすごいところです」

 ただし、「こういう王道のいい話は苦手で、避けていた」と苦笑いも。

「だってオイラは亜流の人間だから(笑)。けど、秋浜先生も言ってましたが、ただの一流より、亜流の一流を目指すほうがカッコいい。それを考えると、この王道こそ、オイラにとっては新鮮で挑戦です」

ヘアメイク:田中菜月

ふるた・あらた●1965年12月3日生まれ。兵庫県出身。大学在学中より劇団☆新感線に参加。以降、看板役者として多くの作品に出演。現在、音楽番組『EIGHT-JAM』にレギュラーで出演中。映画『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』が公開中。9月からは劇団☆新感線45周年興行・秋冬公演チャンピオンまつり いのうえ歌舞伎Avengers『爆裂忠臣蔵〜THUNDERSTRUCK』に出演する。

『ある地方高校生の日記 一九五〇〜一九五三』
秋浜悟史 松本工房 3960円(税込)
岸田國士戯曲賞を受賞し、演出家、教育者としても1960〜90年代の演劇界を牽引した秋浜悟史の高校時代の日記。ときには戦争への憎悪を数頁にわたって文学的に綴るなど、石川啄木の再来といわれた片鱗が随所に感じられる。古田新太をはじめ、著者に師事した演劇人たちの寄稿も必読。

舞台 ケムリ研究室no.4『ベイジルタウンの女神』
作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ 出演:緒川たまき、古田新太、水野美紀、山内圭哉、坂東龍汰、藤間爽子、温水洋一、犬山イヌコ、高田聖子ほか 5月6日(火・休)より東京、兵庫、久留米、豊橋、新潟にて上演
●ケムリ研究室の旗揚げ作品が待望の再演。貧民街・ベイジルタウンを買収するため、ある賭けに乗ったマーガレット(緒川)。それは正体を隠し、無一文でベイジルタウンで1カ月暮らすというもの。やがて彼女の運命は、貧民街で暮らす王様(古田)らとの出会いで大きく変わっていく。