赴任先は怪異専門部署!人ならざる怪異に公務員が挑む【書評】
公開日:2025/5/22

全国の都道府県や市区町村にある役所。その多くは、住民の暮らしを支えるために存在している。そんな役所で働く真面目で現実主義な公務員・大野木が、県庁の仕事で「特別対策室」へ配属されたことをきっかけに、さまざまな怪異や心霊現象と対峙することになる物語。それが『夜行堂奇譚』(嗣人:原作、げみ:絵/産業編集センター)だ。
もともとは生活安全課に所属していた主人公・大野木だったが、ある日上司である部長・藤村から「特別対策室」への異動を告げられる。そこは県庁に寄せられた「人ならざるものの仕業としか思えない事件事故」を扱う部署。大野木の新部署での初仕事は、行方不明となっているたった一人の前任者・尼ヶ崎の捜索から幕を開けることになる。
人ならざる存在を相手に、当初は苦戦していた大野木だったが、縁あって古物商を営む店・夜行堂に出会う。店の店主やそこに出入りする隻腕の霊能者・千早らと共に、大野木は前任者・尼ヶ崎の行方を追いながら、次第に怪異による数々の事件へと巻き込まれていく…といったあらすじだ。
本作の読みどころのひとつが、大野木と千早を中心に巻き起こる、怪異による妖しくも悲しい事件事故のエピソードだろう。数々の怪異も、その多くは“かつて人間だった者たち”の情念や未練が引き起こしているのだ。
場所やもの、あるいは誰か特定の人物。死してなお、場所や人、ものに執着し続ける怪異たち。その理由に迫る物語でもある。それぞれのエピソードから垣間見える人々の物語もまた、このマンガの魅力のひとつでもあるだろう。
そしてもうひとつ、大野木や千早らが集う夜行堂という店、そしてその店主にまつわる謎も、本作の続きが気になる理由のひとつとなる。クールビューティーな女性の見た目に反して、おそらく彼女もまた人ならざる存在だ。
彼女は一体誰なのか。なぜこの夜行堂という店を営んでいるのか。謎が謎を呼ぶその正体もまた本作の見どころのひとつ。妖しくも惹かれる謎に満ちたこの世界に、あなたも一歩、足を踏み入れてみてはどうだろうか。