“前世の知識でチート”が通用しない異世界転生マンガ。低水準医療の世界で、日本の医療知識はどこまで役に立つ?【書評】

マンガ

PR 公開日:2025/5/8

目の前の惨劇で前世を思い出したけど、あまりにも問題山積みでいっぱいいっぱいです。まぶた単 (著), 猫石 (著), 茲助 (著) / ブシロードワークス

 魔法が存在する異世界で、現代の知識も万能ではない。頼れるのは、前世の経験と、自らの意志だけ。『目の前の惨劇で前世を思い出したけど、あまりにも問題山積みでいっぱいいっぱいです。』(ブシロードワークス)は、猫石氏による小説を原作とし、まぶた単氏が漫画化、茲助氏がキャラクター原案を担当する異世界転生×医療のファンタジー作品だ。

 主人公ネオン・モルファは、トロピカナフィシュ王国の南方辺境伯夫人。家の命令に逆らえず嫁いだものの、夫ラスボラから「私が君を愛することは絶対にない」と突き放され、仮面夫婦として生活していた。

 開き直って自由気ままな日々を過ごしていたネオンだが、騎士団の慰問に訪れた際、負傷兵と死体が転がる地獄のような光景を目の当たりにする。

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悲惨な有様に嘔吐し、恐怖に震えるネオン。そのとき彼女の頭に響いたのは、前世で共に働いた先輩の「簡単に逃げ出していいの?」という声だった。

 前世で日本の看護師だったことを思い出したネオンは、劣悪な環境を前に、命と向き合う覚悟を決める。医療水準が低く、道具もない世界で、彼女は兵士たちを救えるのか――。

 本作は、異世界転生モノとしては珍しく、「前世の知識でチート無双する」という展開が通用しない。ネオンは看護師だった頃の知識を活かそうとするものの、文化や技術の違いから思うようにいかない。重傷者を前にして、「救命救急か外科勤務をやっておけばよかった…」とこぼす場面も。

 さらに、この世界には魔物の出す魔力による「瘴気病」が存在し、魔物によって傷を受けると「魔瘴」の影響で致死率が跳ね上がる。現代日本の知識では治療できるか分からない症状を見て、心が折れかけるネオン。しかし彼女は諦めず、この世界で手に入る道具を駆使しながら、懸命に看護を続けていく。

 主人公であるネオンは、いわゆる「覚醒して強くなるタイプ」ではない。記憶を取り戻す前から、すでに芯の通った女性として描かれている。父親とその家族から、理不尽に母とともに屋敷を追い出され、庶民同然に働いていた過去を持つネオン。辺境伯との政略結婚も、「断れば家族を人質に取る」という脅しを生家から受けてのことだった。

 看護師だった前世の記憶を思い出してからは、自ら責任を取ると宣言し、救護施設を整え、兵士たちの命を守ることに尽力する。手伝ってくれた人々への感謝を忘れず、患者には慈愛の心で接し、理解のない夫を説き伏せる賢さも持つ女性。まさに現代的な「カッコイイ女性像」が詰まったヒロインに、共感を覚える読者は多いはずだ。

 また、原作者の猫石氏が医療従事者であることから、リアルな医療知識や技術が描かれているところも、本作の魅力のひとつだ。作中の治療シーンも分かりやすいながら説得力があり、死が迫る患者を前にした生々しい緊迫感が漂ってくる。

 命と責任に真正面から向き合うネオンの奮闘を描いた異世界医療ファンタジー、『目の前の惨劇で前世を思い出したけど、あまりにも問題山積みでいっぱいいっぱいです。』の第1巻は、2025年5月8日発売予定。1巻の終盤では、主人公を騎士団の慰問へと導いた「仕掛け人」の存在も明かされ、次巻への期待が高まる展開となっている。ネオンの尽力の裏で、動いていた意図とは……続きはぜひ、その目で確かめてみてほしい。

文=倉本菜生

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