住み慣れた自宅で最期を迎えたい。終末期の願いに応える看護師たちのリアルを描くコミックエッセイ【書評】

マンガ

公開日:2025/5/18

 自分の人生の最期をどう迎えたいか、考えたことはあるだろうか? さまざまな病気で治療による回復がこれ以上見込めず終末期を迎える人々。その中でも「住み慣れた自宅で最期を迎えたい」と考える患者に寄り添う医療スタッフの姿を描いたコミックエッセイが、『終のナース~終末期訪問看護師の看取りの現場より~』(にわみちよ/竹書房)である。

 とある調査では、約80%もの人が「自宅で死にたい」と希望している。慌ただしく無機質な病室より、住み慣れた馴染みの家で死にたい。残される家族と少しでも長く一緒に過ごしたい。実際に自宅での終末期の過ごし方を選ぶ人たちもさまざまな事情がある。だが実際に自宅で最期を迎える人の割合は、現状たった15%ほど。自宅では病院のような充実した治療・診療設備もなく、また患者を取り巻く家族には介護・看護や暮らしの負担もかかる。そんな背景が、患者の希望する数字をなかなか実現できない理由のひとつでもある。

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 そんな在宅での終末期を望む患者と家族を支えているのが、大病院の訪問診療科に勤める若手ナース・星野ひなだ。在宅医療を支えるスタッフの日々の努力や、大きな労力を伴いながらも感じられる確かなやりがい。ふだん目にすることの少ない、医療現場のリアルな背景が垣間見える点も本作の大きな読みどころである。

 作中にも描かれるとおり、人々の「自宅での看護」はまさに千差万別。便利な医療機器がない状況で最善の処置が求められる。訪問診療に携わるスタッフの日々の診療・治療は、臨機応変な行動の積み重ねだ。

 人の命に向き合う医療現場、その中でも患者の最期に立ち会うことも多い訪問診療の分野。ふだんあまり知ることのないその一面を知ることで、そこで働く人々に対し大きな敬意を持つと同時に、改めて自分の人生の最期にも思いを馳せる。本作は、そんな機会を与える作品にもなるはずだ。

文=ネゴト/ 曽我美なつめ

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