東大卒コンビ・無尽蔵のコラム連載「尽き無い思考」/第2回(やまぎわ)「無尽蔵やまぎわ省察」
公開日:2025/5/15

サンミュージックプロダクションに所属する若手の漫才コンビ・無尽蔵は、ボケの野尻とツッコミのやまぎわがどちらも東大卒という秀才芸人。さまざまな物事の起源や“もしも”の世界を、東大生らしいアカデミックな視点によって誰もが笑えるネタへと昇華させる漫才で、「M-1グランプリ2024」では準々決勝まで進出し、次世代ブレイク芸人の1組として注目されている。新宿や高円寺の小劇場を主戦場とする令和の若手芸人は、何を思うのか?“売れる”ことを夢見てがむしゃらに笑いを追求する日々を、この連載「尽き無い思考」で2人が週替わりに綴っていく。第2回はやまぎわ回。
第2回(やまぎわ)「無尽蔵やまぎわ省察」
やりました~~~祝祝祝。KADOKAWAさんに無尽蔵のコラムを始めていただきましたよ~~。
野尻~~いつもめっちゃ長いnote書いてくれといてありがと~~。おかげでKADOKAWAさんに見つけていただけましたよ~~。
はぁ…コラム…文化的で甘美な響き…。これは無尽蔵のWikipediaに「やまぎわ(コラムニスト)」の項を追加してもらわんと。お母さん、息子があなたの大好きなマツコ・デラックスさんと同じ職業になりましたよ。誇ってください。

さて、このコラムはWEB連載ですから、きっとやまぎわのことを知らない方が目にする機会も多いでしょう。簡単に自己紹介をさせていただこうと思います。
僕は無尽蔵というお笑いコンビのやまぎわと申します。サンミュージック所属で、芸歴3年目の25歳です。東大院卒で、いわゆる「大学お笑い」出身です。
ここまでは相方とほぼ一緒ですが、大きく違う点として、普段社会人として働いているということがあります。
日中はエクセルのXLOOKUP関数(行ごとに検索する関数)を使いこなし、夜はライブに出るという生活を1年続けてきました。これを読んでいる社会人の皆さんとは、きっと「DB (確定給付企業年金)とDC(確定拠出年金)って結局何が違うんだっけ?」といった話で盛り上がれると思います。
自己紹介もそこそこにして、早速「コラム」に入っていきたいと思いますが…。困ったことに筆が止まってしまいました。
そもそも僕は「人に何かを伝えたい」と思うことが少ないし、苦手です。学生時代も、注目を集めることに快感を覚えるクラスのお調子者…ではなく、クラスの隅っこで2、3人の友達と話しているタイプでした。
伝える必要がそんなにないかなと思って、親にも部活で何があったかとか話した記憶がありません。お笑い活動も見つかる形で、自分からは言い出しませんでした。
SNSでの発信も超がつくほど苦手です。「どんな風に思われるやろか…」と考えている間に日が暮れます(なので今は病欠報告としてのみXを動かしています)。

そんな僕ですから、芸人になった理由も、「有名になりたい」とか「お笑いで何かを伝えたい」とか、そういったものではありません。じゃあなんで社会人と芸人を両立する生活を続けているのかを内省したところ、理由は2つありました。
1つ目は「楽しいから」です。
高校の文化祭で漫才をしたことがきっかけで大学でも落語研究会に入り、漫才やコントをしていました。
「お笑いを作っている」という行為の特別感は、学生にとっては劇薬です。楽器も弾けない、絵も描けない人間が、思いついたことを形にするだけで、とてもクリエイティブなことをしている気がします。
それを舞台の上で演じれば、笑い声という賞賛がすぐにもらえる。
こんなにわかりやすいことはありません。
大学1年生の時の大会で予選を勝ち進むなど、出だしが好調だったおかげで、今もその惰性のまま続けているような感覚があります。
2つ目は「自分みたいな人、お笑いの世界にいないなぁ」と思ったからです。「いてもいいのに」と。
僕は「べき論」が苦手です。世の中の全ての論争は、結局のところその人の「好み」に帰着できると思っています。いろいろな価値観があるのに、自分の価値観を唯一の是とし標榜することには何のときめきも感じません。
お笑いにも「ザ・王道」みたいな鉄板のお笑いがあって、「売れるべき」「有名になるべき」みたいな価値観があります。だからこそ「お、これはまだ誰も面白がっていないぞ」ということに価値を感じますし、「お笑いもお笑い以外も頑張りたい芸人」がいてもええやんと思います。
僕には「有名になりたい!」とか「お笑いで天下を取りたい!」みたいな外向きの矢印はありません。もし自分とまったく同じ価値観の人がこの世にいたとして、その人は「無尽蔵」がこの世からいなくなったらちょっと悲しいだろうな、と思ってお笑いを続けています。
突き詰めれば自分のため、ということに尽きます。

ただ、プロになって、M-1準々決勝進出という成果が生まれ、無尽蔵を面白いと思ってくれる人とのつながりも増えました。結果こうやって今コラムの仕事もいただけています。
このお話をいただいた時、身分不相応な新しい機会に挑戦できることも、このコラムの編集者さんが僕らをみて「きっと面白いものができる」と思ってくれたことも本当にうれしかったです。
自分のためにしてきたことが、自分の知らない誰かと共鳴して、思いがけない展開につながっていくのは大変ありがたいことです。なので、このコラムもまずは自分のためとして書ければと思っています。
なぜ僕は1年間も社会人と芸人の両立を続けてきて、これからどうなりたいと思っているのか。色々書き残して、「あ、ワイってこんなこと考えてるんや~」と気づきを得たりしたいです。
その結果、働いている皆さんや、就活・芸人を目指す学生さん、今芸人をされている人たちにとっても、ちょっとした気づきのあるものができれば嬉しいです。
(本当野尻と違って文章も内向的で恥ずかしい人間ですね僕は…)

■無尽蔵
サンミュージックプロダクション所属の若手お笑いコンビ。「東京大学落語研究会」で出会った野尻とやまぎわが学生時代に結成し、2020年に開催された学生お笑いの大会「ガチプロ」で優勝したことを契機としてプロの芸人となった。「M-1グランプリ2024」では準々決勝に進出。
無尽蔵 野尻 Xアカウント:https://x.com/nojiri_sao
無尽蔵 野尻 note:https://note.com/chin_chin
無尽蔵 やまぎわ Xアカウント:https://x.com/tsukkomi_megane
■恵比寿 大龍軒(撮影協力)
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