人見知りの青年と社交的な吸血鬼。凸凹コンビが、ヴィクトリア時代のイギリスを舞台に怪奇事件に挑む!『テーラーの憂鬱』【書評】

マンガ

PR 公開日:2025/5/19

テーラーの憂鬱鷹野久 / 少年画報社

『向ヒ兎堂日記』や『午後3時 雨宮教授のお茶の時間』などで知られる漫画家・鷹野久氏が描く最新作『テーラーの憂鬱』(少年画報社)の第1巻が発売された。

 舞台はヴィクトリア朝時代の英国。主人公は、腕のいい仕立て屋だが人見知りの長身青年ルークと、小柄だが社交的な“吸血鬼”のジョセフの2人だ。彼らは、ジョセフがルークの代わりに接客し、人見知り克服を手伝うことを条件に、ルークの血液をもらうという約束を交わした関係である。

 人が苦手で気弱なルークも、「血液を飲ませてやっている」という立場からか、ジョセフには少し強気になるのが微笑ましい。少しいびつだが、それでも利害が一致している彼らはうまくテーラーを切り盛りできていた。

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 しかし、ある日もう1人の吸血鬼の女と出会ったことで、彼らの日常は少しずつ変化していく。

 ルークを人質に取られたジョセフは、彼女の“お願い”を聞かざるを得なくなる。それは、彼女が雇っているメイド達にアヘンを売っているらしい売人を皆殺しにしてほしいという内容だった。そして、依頼を引き受け、売人達の巣窟に足を踏み入れたジョセフは、それが単なるアヘンの売買だけではなく、もっと闇深い場所であることを一瞬で察するのだった。

 吸血鬼と1人の青年の平穏な日常は、フリークショーを開催し、“化け物” 達をコレクションする謎の男達との遭遇によって一変してしまう。

 ファッションや街並み、作中を漂う古き英国の空気の中、吸血鬼や狼男、ノームがソッと陰に隠れて暮らしている光景は、なんだかとてもリアルで、気がつくとその世界観にどっぷりと浸かってしまっている。吸血鬼や狼男は並の人間では敵わないような力を持っているが、人間社会の中ではその力を発揮するどころか、隠すか見せ物として晒すことしか選べない。彼らからはその物悲しさが伝わってくる。

 人間からは化け物としか見做されない彼らにも、それぞれの人柄や資質がある。なぜか人間の姿にはならずに年中狼の姿でいる狼男のパーシーは他の狼男から変わり者扱いされていた。しかし、そんなパーシーは、ジョセフがフリークショーの屋敷に火をつけてみんなが逃げる中、他の仲間達も連れて帰りたいとその場に残り、はぐれてしまったというのだ。誰も彼の人間の姿を見たことがない中、ジョセフは例の女の吸血鬼の依頼でその狼男を探し出さないといけなくなってしまった。

 もともと極度の人見知りだったルークの変化も興味深い。一人で外に出ることすら難しかったルークが、ジョセフが人を殺すのを止めに行くために無意識のうちに家から駆け出していたり、新たに出会い居候となったノームとは穏やかに会話をすることができていたり、彼の隠れた芯の強さや正義感が垣間見える瞬間がある。そしてその変化は間違いなくジョセフとの出会いと日常によるものだろう。

 果たして、パーシーは今どこにいるのか。そして、フリークショーを開催していた男達の思惑はなんなのか。なんだか不穏で、少し怖い。でも、ルークとジョセフの行く末を、目を離さずに見届けたい。そんな2人の関係や世界観に惹かれる第1巻であった。

文=園田もなか

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