川谷絵音のエッセイ連載「持っている人」/第5回「ごめんなさい」

小説・エッセイ

公開日:2025/5/17

 大好評発売中!川谷絵音さんによる初エッセイ『持っている人』。なんと今回は、本書にまつわることで川谷さんから重大発表があります……!

 重版。重版出来。僕の人生に縁がないと思っていた言葉。36歳にして、恵みの通り雨のように降ってきました。『持っている人』というエッセイを発売して2ヶ月、初の重版決定です!おめでとう自分!干上がった砂漠のような脳内からアイデアを絞り出していたあの日々が報われたよ。そんなメモリアルな日なので、酒を呷りたいところなのですが、鬼編集から新作エッセイを一つ書けと言われたので、今泣きながら書いてます。情緒も通り雨。

 さて、このエッセイを書き始めたきっかけに関しては色々なインタビューでも答えていますが、小原晩さんの『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』というエッセイを読んだからなんですね。こんな面白いエッセイがあったのかと衝撃を受けた川谷くんはエッセイスト(仮)を目指すわけです。もちろんあんなに凄い文章は書けませんでしたが、あの作品がなかったらこの連載も本の出版もなかったはずです。今回はそんな尊敬する小原晩さんと初めてお酒を飲み交わした話をしようと思う。

『持っている人』(川谷絵音/KADOKAWA)

 2025年4月某日、僕は昼にフェス出演を終え、休日課長とサポートコーラスのえつこと3人で、友達がオープンさせたカレー屋でカレーを食べていた。昼に仕事を終えた解放感からか、ビールやレモンサワーを次々に飲んだ僕と課長(えつこは車だったのでノンアルコール)は、カレー屋を出た頃には酒スイッチが完全に入った状態だった。帰るえつこを見送った僕ら2人はすぐに居酒屋に入り、飲み始めた。2人で飲むのもなぁと思い、何人か友達に連絡してみる。返信を待つ間に、ふとダメ元で小原晩さんを誘ってみた。“今度飲みましょう”という口約束みたいなメールを少し前にしていたが、その絵空事に近い禁句が発されてしまったやり取りの先に、飲み会があった試しがない。

 そうこうしている間に、最初に連絡した清竜人から「行く」という連絡があった。最近の一番の飲み友である竜人。出会いのエピソードは強烈過ぎるのでどこにも書けないのだが、鮮烈な出会い方をした僕らは遅れてきた親友という言葉が良く似合う関係になっていた。肩肘張らずに酒を飲み交わせる数少ない人間である。

 その後、竜人に加えて何人か友達が来て、結局5人で飲んでいたら、小原晩さんから「遅くなるけど行きたい」と連絡が入った。絵空事ではなかった!小原さんと飲めるなら何時まででも飲んで待っていようと心に決めた。みんなに「尊敬する作家の方がこれから来る」という話をしたら、小原さんの本を読んでいた友達は歓喜していた。何も知らない竜人には「今日みたいな何気ない飲み会も多分面白く書いてくれるような人だよ」と説明しておいた。

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川谷絵音(かわたに・えのん)

日本のボーカリスト、ギタリスト、作詞家、作曲家、音楽プロデューサー。1988年、長崎県出身。「indigo la End」「ゲスの極み乙女」「ジェニーハイ」「ichikoro」「礼賛」のバンド5グループを掛け持ちしながら、ソロプロジェクト「独特な人」「美的計画」、休日課長率いるバンドDADARAYのプロデュース、アーティストへの楽曲提供やドラマの劇伴などのプロジェクトを行っている。