江戸の“パン狂い”が現代のパンに感涙!知識も歴史も恋もパンも詰まった異色ラブコメ【書評】

マンガ

公開日:2025/6/7

 パンが日本へいつ伝わったのかを知っているだろうか。諸説あるが、今から450年以上前の室町時代に伝来し広まった食べ物だといわれている。

 今や日本の食卓に欠かせないパンだが、誕生のきっかけやパン作りの詳細な工程を知る機会は意外と少ないだろう。『いとしのパンユーレイ』(アユタミシン/マッグガーデン)では、鎖国中の貿易拠点・出島があった長崎県長崎市を舞台に、さまざまなパンの歴史が語られる。

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 父親との苦い記憶からパンが苦手な主人公・小麦。しかし、ひょんなことからぬいぐるみを依り代としてさまようパン好きの幽霊・一郎と遭遇する。彼の成仏を手助けするため、パン作りに挑戦することになるのだった。本作はパンを通して少しずつ距離を縮める2人のラブコメディである。

 小麦が出会った幽霊・一郎は、江戸時代の「寛永」を生きた男性である。生前の姿は大人びていて見た目も格好いいが、彼は「パン狂い」と呼ばれるほどのパン好き。作中にはさまざまなパンが登場し、一郎はこれに対して毎回オーバーリアクションで感動する。パンを口にして感涙したり、地面に落ちたら必死の形相で助けようとしたり。ぬいぐるみへ憑依していることもあり、振れ幅の大きいリアクションが魅力だ。しかし、一郎が感動するパンは、一郎が生きていた時代にはなかったものばかり。一郎の新鮮な感動を見て、現代を生きる読者も「そんなに珍しいのか」と、馴染みのパンの印象が変わるかもしれない。

 また、本書では今では当たり前となったさまざまなパンのルーツや知っているようで知らない豆知識にも触れている。「ドライイーストの代わりに使われていた材料」「カステラの元になった食べ物」など、普段は意識しないパンの豆知識は歴史の勉強にもなる。次に登場するパンにワクワクが止まらない。どのようなパンが登場するかも見どころだ。パン作りの工程も、種類ごとに丁寧に描かれており、ただ読むだけでも「こんな作り方だったのか」と新たな発見がある。

 パンにまつわる知識や歴史、そして幽霊との奇妙な共同生活を通じて、小麦と一郎の関係がどのように変化していくのか――。「パンが好き」「歴史に興味がある」「ちょっと変わったラブコメを読みたい」そんな人にこそ手に取ってほしい一冊だ。

文=ネゴト / mikasa

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