医者も気づけなかった異変に母だけが気づいたのはなぜ?直感を信じ子どもを救った母の奮闘の記録【書評】
公開日:2025/6/8

『母の勘を信じて 次男が入院するまでの記録』(みほはは:著、Dr.しば:監修/KADOKAWA)は、幼い子どもを持つ母親が「いつもと違う」と感じた違和感を頼りに、自らの直感を信じて行動する様子を描いたコミックエッセイだ。
常にそばにいるからこそ気づく、小さな変化。「なんだかいつもと違う」「どこかおかしい気がする」そんな違和感は、気のせいではないのかもしれない。けれど、いざ病院を受診しても、「気にしすぎですよ」「そのうち良くなります」と言われてしまえば、親は迷い、戸惑うものだ。「大丈夫」と言われた安心感と、「でもやっぱり……」という胸騒ぎとの間で揺れ動く。本作は、そんな葛藤のなかで母親がどのように自分自身と向き合い、大切なものを守ろうとするかを、リアルに、丁寧に描き出している。
医学的なデータや数値では拾いきれない、ほんのわずかな異変。子ども自身も上手に言葉にできない不調。子どもの“微妙な違い”を見逃さないのは、誰よりも日々を共にしている親だからこそ。そして、その「母の勘」は、決して軽んじられるものではない。
この物語の主人公・ゆーくんの母親は、息子の咳にいつもとは違う違和感を覚える。診察の結果や周囲の声に揺れながらも、最終的には「やっぱりおかしい」という自分の感覚を信じ、かかりつけ医ではなく、隣町の病院を受診することを決めた。それは、簡単な選択ではなかったはずだ。「大丈夫」という言葉に甘えたくなる気持ちもあっただろうし、心配しすぎる自分を責めたくなる瞬間もあっただろう。
本書を読むと、子育てにおいて「このままでいいのかな?」「ちゃんと気づいてあげられているかな?」という読者の不安に寄り添い、背中を押すような力を感じる。そして、自分のなかにある小さな違和感や直感に耳を傾ける勇気を与えてくれる。
子育ては、正解のない日々の連続だ。けれど、何があっても「信じる」という選択をした、ひとりの母親の物語は、きっと多くの人の心に静かに届くだろう。「自分の感覚を信じてもいいんだ」この本は、そんな大切なメッセージを、あたたかく力強く伝えてくれる。