水木しげる・青山剛昌を輩出した鳥取県。町の本棚を紹介する「あの町の本棚」が今回向かったのは、漫画に馴染み深い地

ダ・ヴィンチ 今月号のコンテンツから

公開日:2025/5/30

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2025年6月号からの転載です。

あの町の本棚 第34回 鳥取

今回の舞台である「鳥取県」は広大な砂丘で知られている土地だ。その砂丘は国の天然記念物にも指定されており、観光に訪れる人が後を絶たない。また、それ以外にも、日本遺産の三徳山や大山をはじめ、白兎神社、倉吉白壁土蔵群など、深い歴史を秘めたスポットが多い。そんな鳥取で暮らす人々の本棚にはどんな作品が並んでいるのか。早速覗いてみよう。

●鳥取砂丘 砂の美術館 館長 下澤武志さん

[鳥取砂丘 砂の美術館]
〒689-0105 鳥取市福部町湯山2083-17 TEL:0857-20-2231 HP:https://www.sand-museum.jp
砂の彫刻「砂像」を専門に展示する世界で初めての美術館。「砂で世界旅行」をコンセプトに、毎年世界の国や地域をテーマに設定し、現在は「日本」をテーマに開催中。日本神話や江戸時代、富士山などの世界遺産を題材にした、国内外の砂像彫刻家20名による大迫力の彫刻がならぶ。

『青春を山に賭けて』
『青春を山に賭けて』(植村直己/文春文庫)781円(税込)

五大陸最高峰登頂を達成し、世界的登山家となった著者。その若き日々を振り返り、胸中を赤裸々に綴る。「自分のことを“臆病者です”という植村さん。挑戦を前にして興奮と不安が交互に押し寄せてくる様子に引き込まれます。常に感謝している姿も印象的」

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『わかりあえないことから コミュニケーション能力とは何か』
『わかりあえないことから コミュニケーション能力とは何か』(平田オリザ/講談社現代新書)968円(税込)

“コミュニケーション能力”の本質とは? 劇作家である著者が、その深淵なる問いに考察を重ねていく。「関係が長くなると、わかってもらえている気になってつい相手に甘えてしまいます。わかりあえないからこそ、コミュニケーションが必要だと実感します」

『NUDGE 実践 行動経済学 完全版』
『NUDGE 実践 行動経済学 完全版』(リチャード・セイラー、キャス・サンスティーン:著、遠藤真美:訳/日経BP:発行、日経BPマーケティング:発売)2530円(税込)

“うっかり”から生まれる損は、どうすれば防げるのか。誰もが持つ認知バイアスを乗り越えるための“ナッジ”を授ける、行動経済学の入門書。「自然な形で自発的な行動を促す、行動経済学、ナッジ理論の面白さが詰まった一冊。すぐに実践してみたくなります」

●とっとり花回廊の皆さん

[とっとり花回廊]
〒683-0217 西伯郡南部町鶴田110  TEL:0859-48-3030 HP:https://www.tottorihanakairou.or.jp
日本最大級のフラワーパーク。秀峰大山を背景に広がる公園内には、直径50mのフラワードーム、展望回廊、水上花壇、ヨーロピアンガーデンなどがあり、色とりどりの季節の花が美しく咲き誇る。季節ごとに夜の花のライトアップや各種イベントも随時実施されている。

『からくりからくさ』
『からくりからくさ』(梨木香歩/新潮文庫)880円(税込)

祖母が遺した家で暮らしはじめた4人の女性。静かで穏やかな時間はやがて、この世界の重厚さをたたえる視座を滲ませていく。「不思議な共同生活から始まる物語。話が進むにつれてバラバラだったことが一つに繋がっていく様子がまさに唐草模様のようです」

『植物園で樹に登る 育成管理人の生きもの日誌』
『植物園で樹に登る 育成管理人の生きもの日誌』(二階堂太郎/築地書館)1760円(税込)

国立科学博物館筑波実験植物園の植物管理を務める著者が、独自の視点で植物との暮らしをまとめたコラム集。物言わぬ植物の世界の解像度が、ぐんと上がるかも。「植物や木々の見かたが変わる一冊。植物園に行くと樹上をキョロキョロ眺めるようになります」

『水滴と氷晶がつくりだす 空の虹色ハンドブック』
『水滴と氷晶がつくりだす 空の虹色ハンドブック』(池田圭一、服部貴昭:著、岩槻秀明:監修/文一総合出版)*品切重版未定

虹とはなに? どうして虹色になる? そんな疑問からスタートし、空を鮮やかに彩る現象一つひとつをやさしく解説。読後、空を見上げてみよう。「ぼんやり眺めていた現象の正体が分かってから、より空を眺めるのが楽しくなりました。虹色ハントの必需品です」

●水木しげる記念館の皆さん

ⓒ水木プロ
ⓒ水木プロ

[水木しげる記念館]
〒684-0025 境港市本町5 TEL:0859-42-2171 HP:https://mizuki.sakaiminato.net
水木しげるの作品世界を楽しみながら知ることができる施設。戦後80年の節目でもある今年は、10月5日(日)まで企画展「水木しげるの戦記漫画」を実施。「戦いの華々しさと悲惨さ」という相反するテーマを描いた水木しげるの戦記マンガについて、貴重な原画とともにその魅力に迫る。

『総員玉砕せよ!  新装完全版』
『総員玉砕せよ! 新装完全版』(水木しげる/講談社文庫)858円(税込)

太平洋戦争末期の南方戦線ニューブリテン島バイエン。劣勢のなかにいた日本軍は、ひとつの決断を迫られる。戦争の虚しさを描いた傑作マンガ。「戦地体験を持ち、戦場の不条理と悲劇を目の当たりにしたマンガ家・水木しげるの代表作の一つです」

『娘に語るお父さんの戦記 小さな天国の話』
『娘に語るお父さんの戦記 小さな天国の話』(水木しげる/河出文庫)891円(税込)

 
21歳で南方戦線に駆り出された著者が綴る、不条理に満ちた過酷な戦争の記録。生死の境を何度も彷徨いながら、そこで見つけた“小さな天国”とは? 「次世代を担う子どもたちに自身の戦地体験を伝えたい、という水木しげるの思いが込められた一冊です」

『決定版 ゲゲゲの鬼太郎』(全14巻)
『決定版 ゲゲゲの鬼太郎』(全14巻)(水木しげる/中公文庫)880~990円(税込)

みんなのヒーロー・鬼太郎はここからはじまった! 1巻には「夜叉」「おばけナイター」「ゆうれい電車」「妖怪大戦争」などを収録。「世代を超えて愛される水木の代表作『ゲゲゲの鬼太郎』が連載順で読めます。鬼太郎ファン注目のシリーズです」

●汽水空港 店主 モリテツヤさん

[汽水空港]
〒689-0711東伯郡湯梨浜町松崎434-18 HP:https://www.kisuikuko.com
鳥取県の中央に位置する汽水湖「東郷湖」に面した書店。湖のほとりにあったおもちゃ屋の倉庫を改装し、庭に3坪の小屋を建て畑で作った作物を食べて暮らしていたが、その後増築工事により広くなった場所で書店を開店。ギャラリーやイベントスペースにもなっている。

『増補改訂版 懐かしい未来 ラダックから学ぶ』
『増補改訂版 懐かしい未来 ラダックから学ぶ』(ヘレナ・ノーバーグ=ホッジ:著、鎌田陽司:監訳/ヤマケイ文庫)1100円(税込)

グローバル経済の拡大はいかに危険なものなのか。自然と調和しながら生きるラダックの人々の暮らしから、目指すべき未来を読み解く。「当たり前だと捉えている現行の経済の仕組み、働き方、暮らし方―すべてを懐かしくて新しい視点で眺める一冊」

『気流の鳴る音』
『気流の鳴る音』(真木悠介/ちくま学芸文庫)1056円(税込)

さまざまな柵に囚われている現代人。その呪縛から解き放たれるヒントは、インディオの“呪術師”にあった!? 人間の歓びに迫る、実験的著書。「社会学者・真木悠介a.k.a.見田宗介が、様々な共同体の在り方、シャーマンの世界を通じて現代社会を考える」

『社会的共通資本』
『社会的共通資本』(宇沢弘文/岩波新書)1056円(税込)

人々の尊厳が守られ、豊かな社会を維持する鍵となる“社会的共通資本”とは。社会思想家でもある著者が、これからの社会に必要なものを提示する一冊。「鳥取出身の経済学者・宇沢弘文が、経済の仕組みに託してはいけないもの“社会的共通資本”を説く」

■あの町と本にまつわるアレコレ

 鳥取県はマンガ家の宝庫だ。その代表格はなんといっても水木しげるだろう。『ゲゲゲの鬼太郎』はテレビアニメも好評で、時代を変えては何度もリメイクされ、子どもたちの心を掴んできた。県内には今回の選書にも協力してくれた「水木しげる記念館」が建ち、鬼太郎ファンで常に賑わいを見せている。

 また、鬼太郎と同じ国民的ヒーローである“コナンくん”を生み出した、青山剛昌も鳥取を代表するマンガ家のひとり。『名探偵コナン』は、もはや知らない人がいないレベルで人気のミステリーマンガであり、ほぼ毎年公開される劇場版の興行収入は右肩上がり。この4月からは長野県警を舞台にした『隻眼の残像』の公開が始まった。他にも、『孤独のグルメ』の谷口ジロー、『グラゼニ』の足立金太郎など、人気も知名度も抜群のマンガ家が名を連ねており、谷口は鳥取を舞台にした作品『遥かな町へ』も手掛けた。

 ちなみに、『遥かな町へ』と同様に鳥取を描くマンガとしては、『砂漠の野球部』(コージィ城倉)、『こんげでカーチャン!鳥取で子育て始めました』(川)、『ヒマチの嬢王』(茅原クレセ)などがある。いずれも地方都市であることを生かしており、“鳥取ならでは”感を堪能できるだろう。

構成・文=イガラシダイ、イラスト=千野エー

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