オレンジ色の豆電球をつけると甘い匂いがする。“嘘しかつかないお姉さん”の言葉がやみつきになる理由【書評】

マンガ

公開日:2025/6/1

 ある程度、信頼関係が成り立っている相手に「嘘」をつかれた場合、裏切られたと思う人がほとんどだろう。騙されたと感じて、傷ついてしまう人も多いかもしれない。

 『ダウナー系お姉さんに毎日カスの嘘を流し込まれる話』(生倉のゑる:著、はるばーど屋:原著/KADOKAWA)では、息を吐くように嘘をつくお姉さんと暗黙の了解で話を聞き入れる少年の不思議な交流が描かれている。SNSでトレンド入りも果たしたASMR音声作品を漫画化した日常コメディだ。

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 ぼうっとベンチに座っていた少年の前に現れたのは、落ち着いた空気感をまとうダウナー系のお姉さん。彼女は隣に座る少年に、平然と嘘の話を吹き込んでいく。普通なら戸惑ってしまいそうなシチュエーションだが、彼女の嘘はなぜだか耳を傾けてしまう魅力があった。

 オレンジ色の豆電球をつけると少し甘い匂いがする。寒天はテーブルの上に置いていると赤外線の波長を乱してしまう。だるまはもう新しく作られていないので、目の入っていないだるまは希少価値が高い。

 矢継ぎ早に飛んでくるお姉さんの嘘は、絶妙なリアリティと説得力があり、本当にありそうな気がしてくるほど。彼女からは相手を陥れようとする悪意は感じられず、ただただ少年とふたりで話す時間を楽しんでいるだけに見えるのも、また不思議だ。

 それぞれのエピソードの最後にお姉さんから少年に向けて送られる言葉には、彼女なりの優しさが込められていることも窺い知れる。お姉さんのプライベートな部分は、謎に包まれたままだが、次第に醸成されていくふたりの信頼関係は読んでいて微笑ましくもあった。

 すべて嘘だとわかっているのに、それでもなぜかまた聞きたくなる。不思議とやみつきになるお姉さんのエピソードトークを聞くためには、少年と同じように公園のベンチへと足を運ぶしかない。しかし、まずは漫画を手にとってからでも、そう遅くはないはずだ。

文=ネゴト / ばやし

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