「叔母を守ってほしい」。百年後の後宮で目覚めた“元侍女”が、許嫁にそっくりの美男子の頼みで再び後宮へ。時を越えた陰謀に挑むドラマチックミステリー【書評】

マンガ

公開日:2025/5/29

目が覚めると百年後の後宮でした 後宮侍女紅玉』(糺ノ森たゆた:漫画、藍川竜樹:原作、新井テル子:キャラクター原案/KADOKAWA)は、時を越えて目覚めたひとりの女性が、後宮に渦巻く陰謀と百年前の真実に迫る、サスペンス仕立ての後宮ファンタジーだ。

 かつて皇后付きの侍女として、華やかな後宮に仕えていた少女・林杏(りんしん)。ある春の宴の最中、謎の呪いによって深い眠りに落ちた彼女が目覚めたのは、なんと百年後の世界だった。

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 人も空気もすっかり変わった後宮で、彼女が最初に出会ったのは、かつての許嫁に瓜二つの青年。事情を知った彼は、彼女に“彩紅玉(さいこうぎょく)”という新たな名を与え、叔母である後宮妃に仕える侍女となってほしいと願う。

 再び後宮で生きる決意をした紅玉。しかしそこで待ち受けていたのは、自身が眠りにつく前に仕掛けられていた、深い陰謀の影だった――。

 本作は、記憶と時間、そして因縁が複雑に絡み合う後宮ミステリー。丁寧に描かれた人間模様と、後宮独特の重層的な権力構造が物語に奥行きを与え、百年越しの真実に触れるたびに読者の緊張も高まっていく。

 嫉妬や劣等感から生まれるいじめ、足の引っ張り合い。女性たちの熾烈な闘いが渦巻く後宮は、わずかな“贔屓”でさえも妬まれ、貶められる苛烈な世界。人間不信や精神的な疲弊、心の歪みすら生まれてしまう環境の中で、紅玉がどのように立ち向かっていくのかが、大きなみどころだ。

 そんな閉塞感の中で、紅玉が周囲と築いていく温かな関係が、物語のやすらぎとなっている。彼女が主催する“鍋会”での和やかなやりとりや、仲間たちとのささやかな交流が、張り詰めた空気の中にほっとする優しさをもたらしてくれる。

 眠りの先に待っていたのは、喪失だけではなかった。失われた時間と向き合い、新たな主君に支えられながら前を向いて強く生きようとする紅玉の姿に、胸を打たれる。切なさと優しさが交差する、読み応えたっぷりの物語だ。

文=ネゴト / すずかん

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