入社3年目テレビ局員によるエッセイ連載「テレビぺろぺろ」/第2回「裏側ブームの行き着く先とは。テレビ局員の告白。」

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公開日:2025/5/31

テレビ東京入社3年目局員・牧島による、連載エッセイ。「新しくて面白いコンテンツ」を生み出すため、大好きなお笑いライブに日参し、企画書作成に奮闘する。これはそんな日常の記録――。

こんにちは。
テレビ東京の牧島俊介です。さて…。

顔がある。顔がない。
知名度の有無を指すテレビ業界用語。
「顔がある」とは視聴者によく知られている人。
「顔がない」とはその逆である。

語源は、「顔が広い」といった慣用句からの派生だろう。
響きがどこかグロテスクで個人的には、あまり好きな言葉ではない。
だが、業界内ではそれなりに定着している表現である。

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同じ話をしても、顔がある人のほうが興味を惹くし、説得力を持つ。
話し手の背景やキャラクターが視聴者に知られているからである。
結果として、顔がある人はますます番組に呼ばれ、顔がない人は呼ばれにくい。
こうしてキャスティング機会の格差は広がっていく。

私は顔がない

それもそのはずだ。
企画演出をした『ナキヨメ』という番組は、SNSで多少の話題にはなったが、いわゆる「大バズり」を生むことができたわけではない。
Xのフォロワーだって1000人程度しかいない。

人気プロデューサーではなく、成長途上の若手テレビ局員である。

ではなぜ、そんな顔なしが、今こうしてエッセイを書く機会をいただけているのか。
それは、「テレビの裏側」というジャンルに、異常なほど注目が集まっているからだろう。

佐久間宣行さん、藤井健太郎さん…。
“顔のある”テレビスタッフたちの語りが、ここ数年でWebメディアや書籍を中心に広まった。

そして、さらなる欲望が視聴者の間で高まる。
「もっと深い裏側を見せて!」
“顔のある”テレビスタッフの話は、もう読み尽くした。
ならば次は、これから活躍するかもしれないし、しないかもしれない。
そんな若手にも話を聞いてみよう。
今やそういうフェーズに突入したのだろう。

舐め尽くされるテレビの裏側

「若手テレビ局員の目線でテレビの裏側を書いてほしい」というお話をいただいた時、心の中に葛藤が生じた。

私のようなノーフェイス局員に目をかけ、連載の場を与えていただいたことは素直に嬉しい。
だが同時に、「裏側を書く」という行為そのものへの抵抗感があった。

というのも、昨今の「テレビの裏側」ブームは行き過ぎていると思うところがあったから。
もう「表」があっての「裏」じゃなくなりつつある。
本来は、「表」を見た人が、より深く楽しむための補足としての「裏側」だったはずなのに、「裏側」だけを見て満足できる構造のコンテンツがあまりに多い。
私自身も経験がある。テレビ番組の「裏側」を語り尽くすトークバラエティや、収録現場の舞台裏を語るラジオを聴くだけで、どこか“知った気”になってしまい、肝心の本編をスルーしてしまったことが。

「表」を見なくても良いとなると、時間も手間もかけて作られた本編が軽んじられていってしまう。
作り込まれたコンテンツの衰退に繋がっている気がして怖くなるのである。

私が「裏側」を書いてしまったら。
「表」さえ知られていない自分が、堂々「裏」をお見せすることになってしまう。
こんな若手テレビ局員の「裏側」まで舐め尽くされようとしているぞ。
そんな危機感が、私をためらわせていた。

しかし、迷いはすぐに消え去る。
心の奥底に隠されていた強い欲望に、私はもう気づいていた。

私は舐め尽くされたい

※画像はイメージです(画像提供:ピクスタ)
※画像はイメージです(画像提供:ピクスタ)

すでにほんのり快感を覚えていた。
「裏側を見せるなんて…」と抗っていたはずなのに、いつしか心のどこかで、それを望んでいた。

注目されたいとは少し違う感情。
「私でよければ」と恐縮しながら差し出したくなる。

つまりは、テレビ局員としての自分が丸ごとコンテンツとなって消費されていくことに、どうしようもなく、いやらしさを感じてしまったのだ。
見せてはいけないと思っているからこそ、なおさらそそられる。

どこまでも、深く舐め尽くしてほしいキャンディ。
乾燥しているところをなくしてほしい。
溶け出したい。

ナキヨメ』の裏側について書いた第1回の記事が多くの方に読まれていると知った時、「ああ、これはベトベトだな」と思った。そして、興奮した。

裏側コンテンツはなくならない

人は皆、「裏側」を見せる時、多少なりともいやらしい気持ちになっているに違いない。
そして、「裏側」好きの視聴者だって、見てはいけない姿を覗いてやろう、そんないやらしい気持ちで「裏側」を舐め尽くしてくれているのだろう。

見られる悦びと、見る悦び。
制作者と視聴者の間の欲情の交換こそが、「裏側コンテンツ」の本質である。
私はムラムラしながらも、冷静に確信した。

現代人は皆、疲れているんだから。
あってもいいじゃないか、欲情のメディアぐらい。

この連載は、若手テレビ局員の成功記ではない。仕事術でもない。
もっとずっと、奥深くにある「裏側」を剥き出しにして供出したものだ。

だから、どうか、遠慮なく私を『テレビぺろぺろ』してほしくって。
そうすれば昂って、必ず近いうちに面白い番組、つまりは「表」を作れると思うから。

牧島俊介●テレビ東京入社3年目を迎えた現役テレビ局員。高校時代に、お笑いコンビ「虹の黄昏」に出会い、衝撃を受ける。自ら企画した番組は、柴田理恵・マユリカ中谷出演のバラエティ番組『ナキヨメ』など。

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