第24回「ふつうの軽音部」/鈴原希実のネガティブな性格がちょっとだけ明るくなる本

文芸・カルチャー

公開日:2025/5/28

みなさんは学生時代どんな部活に入っていましたか?

運動部でしょうか。それとも文化部でしょうか?

この話題になると私は必ず、「吹奏楽部って果たしてどっちに属するんだろう。」と思ってしまいます。

体力が無いとやっていけないけれど、活動的には室内でやることが多いですよね?
そうなるとどちらの要素もあるなと感じるのです。

この枠組みの部活って他にもあるのかな?と考えた時に、軽音部ももしかしてこの枠なのかなと思いました。

なんてことを議論している、そんな貴方は何部だったんだい?と思われる方もいるでしょう。

そんな私は、美術部兼帰宅部でした。
……なんだかすみません。

ということで今日ご紹介する作品はそんな絶妙な枠組みに属する軽音部の様子を描いた作品『ふつうの軽音部』です。

渋めの邦ロックが好きな女子高生・鳩野ちひろ。

彼女は中学時代のとある出来事がきっかけでバンドの趣味や自身の歌声に一種のコンプレックスを抱いていました。

高校入学後に軽音部に入部したちひろは、同じクラスとなった陽キャ女子の内田桃や、自身とバンドを組みたいという幸山厘など、さまざまな軽音部員と出会い、多くの経験を経て成長していく…。

というのがこちらの作品のあらすじとなります。

「ふつうの軽音部」はタイトルにもある通り、現実世界のどこにでもありそうな「ザ・ふつう」といった雰囲気の軽音部の様子がこれでもか!と描かれている作品になっています。

例えば廊下での練習の様子だったり、1年生のうちに結成したバンドの半数が解散してしまったりと。

軽音部のことは詳しくは分かりませんが、何か周りの子たちこんな感じだった気がする…!という錯覚に陥ってしまうくらいのリアリティのある描写が印象的です。

それだけ聞くと、少しシリアスめな作品なのかなと思われるかもしれませんが、この作品かなりコメディよりです。

「ふつうの軽音部」の良さはそのバランスの良さにもあると思っています。

先程リアリティのある描写が多いと言いましたが、そのリアリティのある描写の中に小さじ1杯分くらいあるファンタジー、すなわち異質な存在がいるというのがこの作品の深みに繋がっているんです。

その異質な存在というのが、主人公の鳩野ちひろ・通称”はとっち”とバンドを組みたいと言ってきた幸山厘です。

彼女はこの作品の中で唯一と言っていいくらい現実味のないキャラクターなのです。

他の登場人物で一見掴みどころがないなと思っていたキャラクターも、個人回などで「そんな過去があったんだ」「普段は明るく振る舞っているけどそんなことを感じていたんだ」などと理解が深まる瞬間があります。

でも、彼女だけはひたすらはとっちを愛している描写のみなんです。

それが凄くいい意味で不気味というか、この作品のイレギュラー的な要素になっていて一気に引き込まれる要因になっているのではないかなと思います。

そんなリアリティとファンタジーが織り交ざったこちらの作品ですが、「ジャンプ+」で連載されている作品ということもあり、やっぱり凄く熱いんです!

特に主人公のはとっち。彼女が魅力ありまくりなのです。
ちょっと陰の要素もあり、共感できる部分がかなり多いはとっち。
そんな人間らしくて魅力的な彼女ですが、人一倍努力家なんです。

そんな彼女のもつ歌声は、決して万人受けする声ではないと作中でも言及されています。

それでも人の心に真っ直ぐ響く歌声をもつ彼女が、その歌声で周りの人の心を動かしていく描写には毎回胸が熱くなります。

特に藤井彩目という女の子の前ではとっちが全力で歌う一連のシーンは、思わず彩目と同じ表情で読み進めてしまったくらい圧巻でした。

そしてそんなはとっちの良さと同時に語らなければならないのが、作中に登場する楽曲の存在です。

先程お話した彩目の前ではとっちが歌うシーンで歌われている楽曲、実際に存在するバンドの楽曲なんです。

これがこの作品の真骨頂といえる部分なのではないかなと感じています。

その楽曲を流しながら作品を読むことで、より臨場感を感じることができますし、いろいろな楽曲も知ることができます。

実際私自身も、この作品で使われている楽曲は全てエピソードと共に流しながら聴いているのですが、漫画と一緒に聴くことでそのエピソードも楽曲もお気に入りになるという体験を何度もしています。

このようにさまざまな楽しみ方ができるこちらの作品。
ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか?
お気に入りの楽曲に出会えるかもしれません。

<第2回に続く>

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