東大卒コンビ・無尽蔵のコラム連載「尽き無い思考」/第4回(やまぎわ)「勝ち負けに支配されるお笑いを何とか論破したい」
公開日:2025/5/29

サンミュージックプロダクションに所属する若手の漫才コンビ・無尽蔵は、ボケの野尻とツッコミのやまぎわがどちらも東大卒という秀才芸人。さまざまな物事の起源や“もしも”の世界を、東大生らしいアカデミックな視点によって誰もが笑えるネタへと昇華させる漫才で、「M-1グランプリ2024」では準々決勝まで進出し、次世代ブレイク芸人の1組として注目されている。新宿や高円寺の小劇場を主戦場とする令和の若手芸人は、何を思うのか?“売れる”ことを夢見てがむしゃらに笑いを追求する日々を、この連載「尽き無い思考」で2人が週替わりに綴っていく。第4回はやまぎわ回。
第4回(やまぎわ)「勝ち負けに支配されるお笑いを何とか論破したい」
むかつく。怒怒怒
先ほど「若武者」というバトルライブに出演して、7位でした!!!15組中!!!昨年4連覇を2回達成した無尽蔵にとっては忸怩たる結果です!!
先週野尻は、あくまで淡々と賞レースに対する疑心を示していましたが、俺はそうはいかんぞ!!!!青く暗い感情を全て乗せ、なんでお笑いでこんな気持ちにならなあかんのじゃという話をする!!!

お笑いにおける「結果」とは二種類あります。一つは「笑い」です。
毎日何かのライブに出て、皆さんの笑い声をいただく。刹那的に完結し、ただそれだけで終わるのが「笑い」の特徴です
もう一つの結果は「勝ち負け」です。こいつが曲者です。
〇〇グランプリ、n回戦敗退(nは任意の自然数)。
バトルライブ〇〇、p組中q位(p、qは任意の自然数、ただしq≧p)。
「勝ち負け」にはそういう「数字」が付き纏います。数字は普遍的で永久的に残り続けるという点で、「笑い」とは決定的に違う性質があります。
その過程において、じゃあ例えば若武者15組中7位という結果が、「後半爆ウケだったものの台詞間違え等グダってしまっての7位」なのか「全体通してややウケ、つまらなくもないが面白くもなくて7位」なのかは、もはや分かりようがないですよね。
勝ち負けという結果は、そこまでにいたるプロセスを捨象します。ある1人のお客さんの心を大きく震わせていたとしても、7位という結果にその情報はもはや含まれていません。ただ僕らが負けたという結果だけが永遠に残り続けます。
じゃあなんで、僕らがこんな「笑い」とは真反対の「勝ち負け」にこだわらなくちゃいけないのか。
これ理由あります!!
今のお笑い界においては、勝ち負けが笑いより先に来てるからです。正直Xで流れてくる勝ち負けの結果だけ追ってネタ見てない野郎死ぬほどおるやろ!!俺もそうや。

このように、まず勝ち負けのヒリツキに耳目が偏重してしまっているということが1つ。みんな「それお笑いじゃなくてええやんけ」的な楽しみ方をしている。
それが行きすぎた結果、勝ち負けの結果が、面白いかどうかそのものを決めているんじゃないかとも思います。つまりあの人は勝っていた→だから面白いんだ、という目線で見るということです。
結果を持ってる芸人がつまらなくても「そういう日もあるわよね」と思ってもらえますが、無名の芸人は、ネタの中でつまらない部分が少しでもあればすぐお客さんを不安にさせてしまいます。
これは、目隠ししながらめちゃくちゃ美味しいオムライスを食べさせられた時と似てますね(ここはあくまでオムライスで例えさせていただきます!)。
目隠しされながらめちゃくちゃ美味しいオムライスを口に入れられても、瞬時に「うま!」と思える自信は僕にも無いです。オムライスと分かっているからこそ、オムライスの味を楽しめるんですね。
「名店のオムライス」と聞かされているならなお良し(ここはあくまでオムライスで例えさせていただきました!)。

どうやら人間には、どれくらい面白いか、どうやって楽しめば良いもんなのかを、あらかじめ知っておきたいという特性があるようです。すなわち面白さの価値基準を外に置いておきたいんです。
だから「あの〇〇さんも絶賛!/メディアで大絶賛!」という権威主義的な物差しも蔓延ってると思うし、賞レースよろしく「後半の盛り上がりが〜」とか、「つかみの早さが〜」とか、「目に見える」判断基準に面白の尺度が支配されています。
賞レースが「目に見える」面白いの価値基準を提示し、見る側がそれを自分の中に取り込み、再生産している。それってなんか悲しくないか…?
面白いという感情は、絵画を見て「なんかええやん」と感じたりするような、そういう直観的で神秘的で複雑なものなはずやのに、何が面白いかという物差しを外に預けてる人が多いんじゃないか?
YouTube見る時も動画より先にコメント欄見てないか?みんながどういう物差しで面白がってるかを最初に確認してないか?
みんな一人一人考えてることが違って、面白いと思うところがもっと違う状態の方が、僕は素敵かなと思いますけどね。怒
「面白い」の価値基準を自分の内面に預けられることこそが、自分のアイデンティティを証明してくれるお笑いの良いところじゃないの。怒怒怒

まぁそんなこと言うたかてね…実は本質的なところは覆らないのよ…。ネタには普遍的な<面白いor面白くない>も、確かに存在するのよ…。そこは人それぞれの物差し、とかでは片付けられない部分なのよ…それがキツイよね…。
だからこそ、自分が面白いと思えてるか、が大事です。そこにプライドを持った上で玉砕し、「なんでこれで負けたんや…!」といった、「納得できない負け」はお笑い続ける原動力にもなりますよ。「まぁ確かにこのネタは甘かったっすよね…」みたいな「納得できる負け」は良くない!自分の怠惰と戦わないといけない!
負けたこと自体が悔しいと言うよりは、今回はちょっと後者の負けを感じてしまったから気持ちが荒ぶってしまいました…。
なんつってる間にもう深夜2時っすよ…社会人の辛いところね、これ…。
■無尽蔵
サンミュージックプロダクション所属の若手お笑いコンビ。「東京大学落語研究会」で出会った野尻とやまぎわが学生時代に結成し、2020年に開催された学生お笑いの大会「ガチプロ」で優勝したことを契機としてプロの芸人となった。「M-1グランプリ2024」では準々決勝に進出。
無尽蔵 野尻 Xアカウント:https://x.com/nojiri_sao
無尽蔵 野尻 note:https://note.com/chin_chin
無尽蔵 やまぎわ Xアカウント:https://x.com/tsukkomi_megane
■恵比寿 大龍軒(撮影協力)
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