大人こそ読むべき絵本とは? 嫌なことから逃げていいと教えてくれる1冊ほか、本読みの達人たちが教える選りすぐりの新刊本

ダ・ヴィンチ 今月号のコンテンツから

公開日:2025/6/27

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2025年6月号からの転載です。

本読みの達人、ダ・ヴィンチBOOK Watchersがあらゆるジャンルの新刊本から選りすぐりの8冊をご紹介。あなたの気になる一冊はどれですか。

イラスト=千野エー

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[読得指数]★★★★★ 
この本を読んで味わえる気分、およびオトクなポイント。

前田裕太
まえだ・ゆうた●1992年生まれ、神奈川県出身。芸人。高岸宏行とともにお笑いコンビ・ティモンディを結成。数々のバラエティ番組に出演し活躍。著書に『自意識のラストダンス』がある。

『にげて さがして』
『にげて さがして』(ヨシタケシンスケ/ポプラ社)1320円(税込)

現代社会で疲弊している大人こそ読むべき絵本

この絵本は大人こそ読むべき絵本である。SNSをひらけば多種多様な意見が飛び交い、現実社会でも辛い経験をする人が多いように思う。
努力しろ、正しくあれ、と強く生きることを推奨する言葉がありふれている中で、本作は文字通り“逃げて探して”というメッセージを我々に送ってくれる。
困難から逃げたっていい、立ち向かうだけが正解じゃない、という言葉と共に、逃げた先でどうするか、という問題に対しても、この絵本は答えを用意してくれている。
ただ問題から逃げるだけでなく、その先で探すべき人生にとって大切なものは何なのか提示している本作を読むと、自分は何のために生きるのかや、生きていく上で大切にするべきものを改めて意識することができると思う。
私も、苦手なことや人から逃げて、その先で好きなものや人を見つけようと強く思った。
児童書/絵本

好きを大切にしようと思える度 ★★★★★

『あとはおいしいご飯があれば』
『あとはおいしいご飯があれば』(柊サナカ/双葉社)1815円(税込)

読めば料理を作りたくなる豊かな小説

この作品を読めば、日常生活でしっかり時間をとってでも料理を作りたくなるはずである。私はこの本を読んでから早速おにぎりを作ってしまった。というのも、食事で大切なことは、美味しいものを食べるために料理を作るだけではなく、その作る行為そのものが人生を豊かにしてくれるものであるということが分かるからだ。
本作は短編集になっていて、1つ短編小説を読むたびに、その小説に出てきた料理の材料と作り方のレシピが載っている。実際に心を惹かれたものを試しやすいのも素晴らしい。
私は、本作の中で特に「雨の日のカタツムリ」という話が気に入っている。これは、雨の日に車を走らせ、人けのない景色の良い場所に車を停めて、そこで仕事をしながら車内で簡易的な食事を取るという内容になっている。同じような過ごし方を実践したいと強く思うほど魅力的であった。
小説/短編集

毎日の食事を大切に思う度 ★★★★★

村井理子
むらい・りこ●1970年生まれ、静岡県出身。翻訳家、エッセイスト。著書に『村井さんちの生活』『兄の終い』『ある翻訳家の取り憑かれた日常』など。訳書としては『ゼロからトースターを作ってみた結果』『家がぐちゃぐちゃでいつも余裕がないあなたでも片づく方法』ほか。

『午前三時の化粧水』
『午前三時の化粧水』(爪切男/集英社)1650円(税込)

なぜかしみじみ泣ける、おじさん美容エッセイ

公園で炭酸飲料水を飲みながら座っていたら、下校途中の小学生に「太っちょゴブリン」と呼ばれていることに気づいてしまった、四十歳を過ぎたおじさんである著者。自分を冷静に見つめ直し、そして一念発起で美容に目覚め、どんどん人生を変えていくという、痛快で、時にほろりとくるエッセイ集だ。
おじさんが挑戦した美容の数々は当然、おばさんにも効果が期待されるものばかりで、読んでいていつのまにやら「私もやってみよう」という気持ちにさせてくれる。どんどん美しく、健康になった著者は、最愛の人と巡り会い、結婚。巻末には著者が美容の師と仰ぐMEGUMIさんとの特別対談もあり、なんとも贅沢だ。
ページに時折挟まれる著者の写真には美容を心から楽しむ様子が映し出されており、大変ほのぼのしてしまう。笑顔もとてもいい。これはただの美容エッセイではない。一人の男性が新しい世界に勇気を出して飛び込んだ、冒険物語だ。
文芸/エッセイ

美容に目覚める度 ★★★★★

『グルメ外道』
『グルメ外道』(マキタスポーツ/新潮新書)1056円(税込)

あの有名な「10分どん兵衛」開発者

なんと書けばいいのか、どう説明すればよい一冊なのか、若干迷う。とてもクセの強いグルメ道(いや、グルメ外道)だが、著者と同年代なこともあってか、理解できる部分が多い。いや、とてもよく理解できる。
一見、めちゃくちゃなようでいて、しかし強めでピュアなこだわりが痛快だ。著者の頭のなかで、すべての食材がそれぞれの世界観を形成しているようで、次に何が出てくるのかとワクワクしながらページをめくった。一食、一食を自由に、そして食いたいように食うのだ!という意思があって、気持ちがよい。
本書を読むと、「次の一食を、どのようにして食すか」という意識が高まるような気がするが、こんなことを書くと著者から冷たい視線とともに「あんた、全然理解していない」と叱られるような気もして、そんなところも含めて、斬新で、自由で、奇想天外なグルメ論だし、著者のこれまでの生き方のすべてが記された一冊だとも言える。
文芸/エッセイ

なんだか腹が減ってくる度 ★★★★★

渡辺祐真
わたなべ・すけざね●1992年生まれ、東京都出身。2021年から文筆家、書評家、書評系YouTuberとして活動。ラジオなどの各種メディア出演、トークイベント、書店でのブックフェアなども手掛ける。著書に『物語のカギ』がある。

『境界で踊る生命の哲学 皮膚感覚から意識,言語,創造まで』
『境界で踊る生命の哲学 皮膚感覚から意識,言語,創造まで』傳田光洋/東京大学出版)3520円(税込)

人体ってすげー!皮膚ってすげー!

言語化がブームだ。作品の感想や推しへの思いから、社会の現状分析までを、巧みな言葉で表現しようと、皆が躍起になっている。だが、言葉には限界がある。それは、自分が認識できないものは言葉で表現できない、ということ。逆に言えば、言葉にするためには、脳で対象を認識する必要がある。ところが、この認識というやつが怪しい。というのも人間は、主に視覚と聴覚に頼って認識をしているが、それすらも完璧ではないし、それ以外にも人体は色んな部位(例えば皮膚)を用いて外界を感知している。
そうした人と世界の「境界」について、皮膚の専門家が綴った思索エッセイだ。例えば僕らは、何かを判断する際には脳が絶対的な存在だと思い込んでいるが、実は脳に依存せず、皮膚だけで判断している場合もあるというから驚き! 脳が分からないだけで、世界には色んな要素があり、僕らはその影響をしっかり受けているのだ。
論述/自然科学

自分の認識を狭く感じる度 ★★★★★

『アンパンマンと日本人』
『アンパンマンと日本人』(柳瀬博一/新潮新書)968円(税込)

早すぎた天才やなせたかしの生涯とアンパンマン秘話

朝ドラ『あんぱん』がスタートした。描かれるのは、「アンパンマン」で知られるマンガ家やなせたかしとその妻の小松暢。アンパンマンを知らない日本人はほとんどいないだろうが、その著者については意外と知られていない。そこでぴったりなのが本書だ。やなせたかしの生涯を辿り、そしてアンパンマンに込められた思想を読み解く。
本書の特徴は彼のマルチクリエイターぶりを強調する点にある。というのも、やなせはデザイナー、新聞社員、雑誌編集者、詩人、童話作家、放送作家、舞台美術制作など、多岐にわたる業績を残している。この視野の広さと、戦争という悲惨な体験とが組み合わさることで、思いやりに満ちた作品が生まれたのである。こうした視点を持って、改めてアンパンマンのオープニングを味わってほしい。人生の悩み、利他、儚さなど、あらゆる思いが詰まっていることが分かる。
文芸/伝記

アンパンマンは元々おじさんだったことにびっくり度 ★★★★★

[B]本間 悠[/B] ほんま・はるか●1979年生まれ、佐賀市在住。書店店長。明林堂書店南佐賀店やうなぎBOOKSで勤務し、現在は佐賀之書店の店長を務める。バラエティ書店員として書評執筆やラジオパーソナリティなどマルチに活躍の幅を広げている。
『僕には鳥の言葉がわかる』
『僕には鳥の言葉がわかる』(鈴木俊貴/小学館)1870円(税込)

動物言語学を創設した学者の鳥愛エッセイに感涙

「シジュウカラは言葉を持ち、それによって仲間とのコミュニケーションを図っている」という、世界的にも大注目の研究内容が、とても分かりやすくエッセイ様に綴られている。彼らは多様な声色で鳴き分けることはもちろん、それらを組み合わせて二語文まで作るという。
本当に言語を持っていると証明するために、様々な反証を挙げ、長い年月をかけて試行錯誤を繰り返す。山で実験に明け暮れる研究者による貴重な実録は、時にユーモアたっぷりに読者の好奇心を刺激してくれるだろう。シジュウカラがほぼ全国に生息し、市街地でも見られる身近な鳥だというところもポイント。学びの種は日常の延長線上にあり、想像もしていなかった世界は手の届くところに広がっている。
今年この本を読まないのは本当に惜しい……! 小学生から大人まで、幅広い年齢層に力いっぱい薦めたいし、巻末の鳴き声も楽しんでほしい!
ノンフィクション/エッセイ

鳥の声が聴きたくなる度 ★★★★★

『ユビキタス』
『ユビキタス』(鈴木光司/KADOKAWA)2035円(税込)

ホラーの帝王が描く空前絶後のバイオホラー

全く著者の頭の中は一体どうなっているのか……と天を仰ぎたくなる壮大なシナリオに、驚きを超えて呆然としてしまう。『リング』シリーズでJホラーブームをけん引した鈴木光司氏の新作が凄まじかった。
南極観測隊が持ち帰った氷塊が引き起こしたと思われる連続不審死、そして新興宗教団体・夢見るハーブの会を襲った十五年前の集団死事件が奇妙な符号を見せる時、物語は思わぬ方向に動き出す。ヴォイニッチ手稿をはじめ、描かれる一つ一つのモチーフが濃すぎる程に濃く、物語の設定をよりリアルに、より強固にする。
ラテン語で「至るところに存在する」という意味を持つタイトル。地球という舞台を彩る“あるもの”が猛然と牙をむく時、人間は為す術がないのかも知れない。
“緑を守る”?思い上がりも甚だしい。お情けで、生かされている立場を、自覚したほうがいい。
小説/ホラー

ホラーの奥の深さが味わえる度 ★★★★★

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