写真家・幡野広志「AIが発達すると、より写真は自由になる」写真を楽しみ、人生をおもしろくする。写真との付き合い方を聞く
公開日:2025/6/10
AIが発達すると、より写真は自由になる

── 今回の本の中には、AIについて触れられているページもありました。写真を撮ることとAIとの関係について、今、幡野さんが感じられていることをお伺いしたいです。
幡野 僕はどんどんAIが発達してほしいと思っていますね。要はAIが生成するものって常に今のインターネットにあるものの平均値だから、ただ綺麗な風景の写真がほしいのであればもうそれでいいんだろうなと思うし、そういう写真は撮りに行かなくてよくなるじゃないですか。それよりは、普段自分が通勤する途中で見かけて感動した風景を撮った写真とかのほうに価値が生まれてくる。
AIが発達すると、写真がより自由になるというか、誤解が解けるようになると思います。綺麗なだけの写真は無駄だよねっていう世界にはやくなってほしいですね。だからAIに一番期待しています。
── AIをアシスタント的に使う人も増えていると思うのですが、写真を撮る時にAIがあってよかったなと思うことはありますか?
幡野 たくさんありますよ。たとえば「とある観光地の写真を撮ってください」「市民の人が喜ぶ写真にしてほしい」という依頼がきた時に、AIに観光地の写真をたくさん出してもらうんです。そうすると「それっぽい写真」がたくさん出てくるから、僕はそれ以外を撮ればいい。
平均値が出せることは、すごく便利だと思います。それを避けられるから。「平均値を真似しよう」という思考になるとダメだと思いますね。平均なんて避けたほうがいい。
── たしかに、答えに対する解釈も大切ですね。
幡野 AIを使う時に一番大事なのはディレクション能力ですよね。質問の内容でまったく違う結果が出てくるじゃないですか。どういう問いを投げかけられるか、そしてその答えをどう使うかがすべてだから、結局文章だったら文章の能力が必要だし、写真だったら写真の能力がないと使えないんですよ。だから、AIによってみんなが偏差値50を叩き出せるかと思いきや、どんどん格差が生まれていってしまうのかもしれないですね。
目で見ることに敵うわけがない
── 本の終盤には「目でしっかりと見る」という章があります。一番大切なのは写真ではなく、目で見てちゃんと心の中に焼き付けることだというメッセージが印象的でした。
幡野 そうですよね。観光地に行くと、カシャッと撮ってすぐ移動しちゃう人がいるんだけど、それはもったいない。やっぱりじっくり見たほうがいいですよね。「ちゃんと目で見ることが大事」だと子どもにもよく言っています。
── 幡野さんは、撮ることに夢中になって、ちゃんと見られなかった時期はあるのでしょうか?
幡野 ありましたよ。昔、息子の出産の立ち会いをしたんですけど、子どもが生まれる瞬間をファインダー越しに見ていたんです。どう考えても肉眼で見たほうがいいですよね。あれはよくなかった。写真を撮ることがよくないというより、まずは見てから撮るほうがまだよかったですよね。子どもからしたら、初めて見たお父さんの顔がわからなかったと思う。
── 目でしっかり見ることが大事。肝に銘じたい言葉です。
幡野 写真を撮ることよりも見ることが圧倒的に大事です。見たものじゃないと記憶には残らないから。写真はおまけぐらいでいい。カメラなんかないほうがいいんじゃないかなと思う時すらありますよ。今この瞬間、全員からカメラを奪ったほうがいいって。
目で見ることに敵うわけがないんです。その前提で、写真を楽しむ。人生をおもしろくする。そんな写真との付き合い方がいいんじゃないでしょうか。

幡野広志 はたのひろし
1983年、東京生まれ。写真家。2004年、日本写真芸術専門学校をあっさり中退。2010年から広告写真家に師事。2011年、独立し結婚。2016年に長男が誕生。2017年、多発性骨髄腫を発病し、現在に至る。近年では、ワークショップ「いい写真は誰でも撮れる」、ラジオ「写真家のひとりごと」(stand.fm)など、写真についての誤解を解き、写真のハードルを下げるための活動も精力的に実施。はじめて写真について書いた書籍『うまくてダメな写真とヘタだけどいい写真』(ポプラ社)は「写真・カメラ」関連カテゴリで2024年の年間ベストセラーになった。著書に『ぼくたちが選べなかったことを、選びなおすために。』『息子が生まれた日から、雨の日が好きになった。』(以上、ポプラ社)など多数。
取材・文=あかしゆか