雨の日にだけ現れる、奇妙な常連客。彼に絶対にしてはいけないこととは? 実話系ホラー漫画【書評】

マンガ

公開日:2025/8/8

「説明のつかないことなんて、この世にあるはずがない」そう信じて生きていても、得体の知れない違和感を覚えることはないだろうか。

丑三つ時、コワい話はこのBarで』(穂科エミ:原作、近原:漫画/KADOKAWA)は、そうした“日常にひそむ異常”を静かに描き出す、実話系ホラー漫画だ。

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 舞台は、ホラー脚本家のエミが営む、小さなバー。“実話ホラー募集中。一杯無料”というその貼り紙をきっかけに、バーにはさまざまな客がやってきて、それぞれが“本当に体験した”恐怖を語っていく。少女がじわじわと近づいてくる絵。雨の日にだけ現れる常連客。どれも都市伝説のようでありながら、妙に現実味を帯びている。「呪われた絵」の話などはホラーではよく聞くが、本作に登場するエピソードでは、霊の気配や異常が“はっきりと”描かれ、ただの怪談を超えた強烈なリアリティがある。

 印象的なのは、それらの話に「明確なオチ」が存在しないことが多いという点だ。怪異の正体がわかるわけでもなく、原因が明かされることもない。ときには矛盾を含んだまま、あっさりと話が終わってしまう。だがそれこそが、実話系ホラーとしての魅力でもある。

 すべてが腑に落ちる話など、現実にはそうそう存在しない。語られなかった部分。その余白こそが、読む者の想像をかき立て、じわじわと恐怖を濃くしていくのだ。

 原作を手がけるのは、TV番組『ほんとにあった怖い話』や、舞台『呪怨 THE LIVE』などでも知られる脚本家・穂科エミさん。彼女が長年にわたり集めてきた、取材や実体験をもとにした“本物の怖い話”だ。

 本当の恐怖とは、決して血が飛び散るような演出や大音量の効果音によってではなく、実際に自分の身にも起こるのではと思わせるようなリアリティによって膨れあがる。本書は、読み終わったあと、背後をそっと確かめたくなる。そんな1冊である。

文=ネゴト / すずかん

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