胃からのSOSを感じる! 中央アジアで愛される国民食を食べてみたら… 知られざる食文化と旅ごはんの思い出がたっぷり詰まったコミックエッセイ【書評】

マンガ

公開日:2025/6/13

世界思い出旅ごはん おかわり 屋台・食堂・宿ごはん 地元の味を食べ歩き!
世界思い出旅ごはん おかわり 屋台・食堂・宿ごはん 地元の味を食べ歩き!低橋/主婦の友社

世界思い出旅ごはん おかわり 屋台・食堂・宿ごはん 地元の味を食べ歩き!』(低橋/主婦の友社)は、旅人・低橋さんがおくる世界の地元ごはん食べ歩きコミックエッセイの第2弾。人気のWEB連載からの抜粋に描きおろしを大幅に加えた、ボリューム満載の1冊だ。

 海外には、日本ではなかなか見かけないダイナミックな調理法や珍しい調理器具が多く存在する。味だけでなく調理の様子にも注目すると、その土地固有の価値観や文化が見えてくる。これも海外料理の楽しみ方のひとつだろう。 

中央アジアで親しまれる国民食「プロフ」

 例えば、にんじん、玉ねぎ、ひよこ豆、レーズンをたっぷり使った贅沢な米料理「プロフ」。ウズベキスタンをはじめ中央アジア各国で親しまれている国民食で、中にはこのメニュー1本で勝負する専門店も存在するほど。

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 それほどまでに人気のメニューだが、味より何より驚いたのが、その調理工程。肉の脂がすでに鍋を泳いでいるというのに、そこへ大量の調理油を追加。迫りくる脂と油のタッグに恐れをなした著者は、以来、単品では決して頼まず、サラダやお茶など少しでも中和してくれそうなものをセットで注文することを徹底していたのだとか……。

 海外料理を食べて「美味しいけれどなんだか体に合わない」と感じたら、案外その理由が、調理工程に隠れていることもあるかもしれないと感じたエピソードだった。

インパクトがすごい! キルギスの家庭料理「オロモ」

 また、観光客向けの華やかな料理ばかりでなく、地域の人々が毎日の食卓で楽しむ家庭料理が多数紹介されているのも本書の魅力のひとつ。

 例えば、キルギスの伝統的な家庭料理「オロモ」。薄く伸ばした小麦粉生地に肉やジャガイモなどの具材を詰め込み、くるっと巻いて蒸した料理だ。見た目にインパクトがあり、もはや眺めているだけでも楽しい1品。なんとなくアニメの世界に出てきそうなビジュアルである。著者曰く、味はトルコや中央アジアの「マンティ」に似ているのだとか。各国の家庭料理を食べ比べてみるのも面白そうだ。

しょっぱさと酸っぱさがダブルで襲来! タジキスタンの「クルト」

 続いて、タジキスタンの伝統料理「クルトップ」。「クルト」と呼ばれる、塩を加えて乾燥させたヨーグルトを水に溶いたスープに、薄焼きパンや溶かしバター、生野菜やハーブを投入した1品だ。見た目は小洒落ていてなんとも可愛らしく、適度な塩味と酸味が暑い時期にぴったり。

 しかしながらこの「クルト」、見た目こそ白くて丸くて可愛らしいのだが、味は全くもって侮れないらしい。ひと口かじれば、しょっぱさと酸っぱさがダブルで襲来。著者に言わせれば、まるで「梅干し」を食べているかのような強烈さがあるのだとか。……現地の子どもたちが拒否する様子を見ると、食べるのに少し覚悟が必要そう。だが、梅干しを愛する我々日本人としては、機会があれば、ぜひ一度味わってみたいものだ。

スープの具を潰して食べる!? アゼルバイジャンの伝統料理「ピティ」

 海外料理を楽しむ際は、その国ならではの食べ方に従うのもまた一興。例えば、アゼルバイジャンの伝統料理「ピティ」。これは羊肉と玉ねぎ、ひよこ豆などを土鍋でじっくり煮込んだスープなのだが、実は食べ方に決まりがある。

 まずは土鍋からスープだけをお皿に移す。パンをスープに浸して食べるのが第1ステップ。続いて残った具材を、小さなすりこぎのようなアイテムでドスドスとすり潰す。実はこの「潰す」という行為こそがピティのキモ。肉と野菜のうまみが混ざり合い、よりやさしい味と食感に変わるのだ。

 本書では、上記を含む30以上の国と地域の料理が、その土地ならではの食べ方や調理の工夫とともに紹介されている。食べることが好きな人も、旅に出たいけど出られない人も、「こんな食べ方があるんだ!」と新しい発見があるはず。異文化の食のスタイルに興味がある人にはぜひおすすめしたい。

文=ネゴト / 糸野旬

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