「らしさの呪縛」が私を苦しめる。女性性への抵抗感と向き合う日々を描いたコミックエッセイ『スカートの呪いが解けるまで 幼少期からの性被害が原因で女らしさ恐怖症になった私』【書評】

マンガ

公開日:2025/6/20

 可愛らしく、優しく、控えめであることが正しい女性像である。そう繰り返し刷り込まれる中で、そこに馴染めなかったり、内心で違和感を覚えたりする人もいるだろう。

 そんな事例を当事者の視点から赤裸々に描いた作品が『スカートの呪いが解けるまで 幼少期からの性被害が原因で女らしさ恐怖症になった私』(魚田コットン/オーバーラップ)だ。

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 幼い頃から「女の子らしく」と求められることにどこか違和感を抱いていた著者。フリルの付いたピンク色の洋服、ロングヘア、しとやかなふるまい。母親や親戚から「正しい女の子像」を強要されるたび、しだいに息苦しさが募っていく。

 さらに、小学校低学年のときに遭った痴漢、5年生から続いた義父からの性虐待をきっかけに、女性性そのものに対し激しい抵抗感を覚えるようになった著者は、その象徴ともいえる「スカート」を履くことができなくなってしまう。

 本作の見どころは、固定観念や先入観を小さな子どもに押しつけることの恐ろしさ、罪深さが、女性性という概念を通してきわめて繊細に描かれている点だ。

 著者を苦しめ続けた「スカートの呪い」は、彼女が妻となり、母になってからも変わらず続いた。娘の個性や感情を受けとめる余裕もなく、「正しく育てなければ」という焦りばかりが先立っていた著者はあるとき、自分を縛っていた鎖を無意識に娘にも巻きつけていたことに気づく。

 あるがままの自分を認めることは本当に難しい。他人の期待や社会の基準に合わせようとしていると、おのずと自分の欠点や弱さを否定せざるを得なくなってしまう。誰かの理想を演じなくても良いと心から理解できたとき、私たちは初めて、本当の意味での自由を手に入れることができるのかもしれない。

 完璧でない自分を許し、愛したいと願うすべての人に手に取ってほしい1冊だ。

文=ネゴト / 糸野旬

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