あれから4年後。地球は「家」に支配されつつあり、抗う人々はホームレスとなってしまった【漫画家インタビュー】
公開日:2025/7/24

念願のマイホームを建て、新生活を始めた瀧本一家。しかし、主人公の美咲は父親との確執を抱えたままで、昔のような仲良し家族に戻る気持ちはなかった。唯一心を許せる弟・浩介と共に家を出るきっかけを探していたところ、部屋の壁から不気味な音が聞こえてきて……。漫画家・勝見ふうたろー氏が描く、何かが少しおかしい世界の物語。
単為生殖が可能な「家」は瞬く間に増殖し、人類はもはや「家」の支配下に。「家」から逃れ続ける美咲や生物学者はホームレスとして細々と生き延びるしかなかった。「もっと違う未来にできていたかもしれない」と悔やむ美咲。一方、「家」との共生を選んだ弟は幸せに暮らしているようだった。
この世界の未来は? 最後のシーンに込めた思い
――4年後の世界、特に最初のコマがすごく好きです。ロケハンはよくされるんですか。
ありがとうございます。大阪の阿部野橋駅前です。
旅行や観光で違う場所に行ったら、1日100枚とか200枚とか、写真をたくさん撮ります。それが自然とロケハン代わりになっていると思います。撮りためた写真は、漫画を描くときに「このシーンにはこの写真が使えそうだな」と思いながら背景として活用しています。
――人間はどんどん食われちゃっている世界なのでしょうか?
4年の間に「家」が急速に繁殖して増え、人間もその「家」の中で生活するようになり、吸収されているわけではないのですが、外の世界に出る機会が減っている状況だと思います。
大通りのような場所がすごくさびれていて、誰もいない描写があるのは、そこに建っているものが「家」と分類される建物ではないからです。商業ビルなどが多い場所なので、きっと人がいないだろうなと思いながら描きました。ただ、「家」をどう定義するかによって、その意味も変わってくるかもしれません。
――なるほど。人が住んでいるかどうか。
もし「家」が「人が住み始めたらそれを家と定義する」と学習した場合、4年後の世界では美咲や他の抵抗する人たちが寝泊まりしている駅や避難所のような場所も、家として認識される可能性があります。そうなると、そこにも侵食が始まってしまうのかもしれません。
――ホームレスのようになっている人たちは、まだ逃げ延びている人たちなんでしょうか?
はい。「そんなの嫌だ」と反発して、美咲のように逃げてきた人たちです。
――最後はみんな諦めて、自分たちも寄生されるという流れになっていくんですかね。
でしょうね。最後、美咲が1人で座っている引きのシーンですが、ここは本当に時間をかけて描き込みました。
――すごく印象的な絵だと思います。
ありがとうございます。このシーン、よく見ると美咲以外のキャラクターがいなくて、荷物だけが置き去りになっているんです。以前の駅の中のシーンではモブがたくさんいましたが、ここでは彼らがすべて車に乗って去ってしまった後なんです。絶望感を出したくて、このシーンには特に力を入れました。
――美咲たちは今後どうなるのでしょうか。寄生された側のほうが幸せそうに見えます。
彼女がどうするのか、僕にも明確にはわかりません。ただ、「家」に住む側に自由があるのかどうかも疑問ですし、もし自由に生きられないなら、「家」を出て孤独な状態でも外で暮らしていくことに意味があるのかなとも思います。
――アフターストーリーがあればすごく興味深いです。
そうですね、それも面白そうです。
――では、『家という名の』を総括すると、どのような作品になったと思いますか?
作家として初めての連載だったので、非常に思い出深いものになりました。それぞれのキャラクターにも味わいがあって、自分としては良いキャラクターが描けたと思っています。ただ、ほとんど1人で作業していたので、体力的にはかなりきつかったですね。でも、初連載としては満足のいく作品になったと思います。
建設作業員が遭遇した奇妙な植物、そして美咲の部屋から聞こえた異音の正体は? 家族の絆をより深めるはずの新居を舞台に、この不可解な物語はどんな結末を迎えるのだろうか。