映画化も話題の小説『青春ゲシュタルト崩壊』がコミカライズ!思春期の苦しさとときめきをリアルに描く【書評】
PR 更新日:2025/6/13

多少嫌なことでもその場を丸く収めるために引き受けてしまい、ストレスが溜まる……。多くの人が感じていることではないでしょうか?
そしてそのストレスが溜まりやすいのが学生時代。クラスに部活、少なくとも1年は同じメンバーで過ごされなくてはいけない閉鎖的な空間、お互いに未熟だからこそトラブルも起きる人間関係……今となっては大したことないと思えることでも、当時の私は頭がいっぱいになったりしていたものです。
そんな思春期の悩み、そしてときめきをリアルに描くのが『青春ゲシュタルト崩壊』(画:上森優、原作:丸井とまと/双葉社)。本作は丸井とまと氏の同名小説をコミカライズしたもの。
主人公・間宮朝葉は優等生タイプ。部活では周りから面倒事を押し付けられ、家では母から期待の言葉をかけられ……。そのすべてに自分が応えれば丸く収まると、無理をして対応しようとします。そんなある日、同級生が自分のことを「みんなにいい顔してる八方美人」と陰で言っているのを聞いてしまった朝葉。さらに追い打ちをかける出来事が起こり、「青年期失顔症」になってしまいます。

「青年期失顔症」とは原作にも出てくる架空の病気。青年期に自己を見失うことで発症する病で、自分の顔が見えなくなります。以前同じ病気になった人のことを部活仲間が「周りに合わせて本心見せてなかったってことでしょ」「信用失くすよね」と話していたことも思い出して焦る朝葉。そこにクラスメイトの朝比奈が通りかかり……。
「朝葉はしっかりしてるから」「自分たちじゃ聞いてもらえないから」と頼りにしている、尊敬しているように見せかけてなんでも朝葉にやってもらおうとする部活のメンバーたち。陰口を言われているとわかっていてもその言葉に応えてしまうのは、そうしなければその場の空気が悪くなってしまうから。自分の居場所がなくなってしまうから。そう考える朝葉の心情はとてもリアル。読んでいて思わず苦しくなってしまいました。

朝葉をその苦しさから解放してくれるのが朝比奈くん。髪の毛も金髪、自分の意見をはっきり言える彼のことを苦手に感じていた朝葉。しかし「青年期失顔症」になったことを知っても誰にも言わず、それとなく助けてくれる朝比奈くんに朝葉の心は救われます。
特に「青年期失顔症」になった次の日、部活を休んだ朝葉のところに来た部活仲間を朝比奈くんが一蹴するシーンは必見。

「心配だから来た」と言うわりに朝葉の体調を気遣う言葉もなく、ただ部活の愚痴ばかり。さらに朝比奈くんとの仲を詮索してくる部活仲間の感じの悪さがリアル。そして普段静かな朝比奈くんが朝葉を守るために声を荒らげるところにキュン。自分も救われたような気持ちになります。
そして「青年期失顔症」についてかなり詳しい朝比奈くんですが、それは一体なぜなのか?そんな謎も次第に明らかに。ふたりの関係に癒され、そして朝葉の成長する姿に自分も殻を破る勇気をもらえる作品です。
文=原智香