人気マンガ『小林さんちのメイドラゴン』待望の映画化!癒しとカオスに満ちた、疲労困憊OL×個性豊かなドラゴンの生活【書評】
PR 公開日:2025/6/27
2017年冬アニメ、2021年春アニメ(連続ショートアニメ劇場「ミニドラ」)、2021年夏アニメとして放送され、今もなお絶大な人気を誇る『小林さんちのメイドラゴン』シリーズ。2025年6月12日に原作最新刊となる17巻が発売され、6月27日には映画『小林さんちのメイドラゴン さみしがりやの竜』も公開される。


テレビアニメ版と同じ京都アニメーションが制作を手掛ける「さみしがりやの竜」は、原作8巻で描かれる、幼いドラゴン・カンナを中心とした家族の物語だ。この映画の公開に先駆け、改めて原作『小林さんちのメイドラゴン』(クール教信者/双葉社)の内容をおさらいし、魅力を紹介したいと思う。
本作の主人公は、システムエンジニアとして働いている25歳の独身OL・小林さん。日々デスマーチに疲弊し、そのストレスを酒で発散する生活を送っていた小林さんは、酔っぱらって森へ迷い込み、そこで手負いのドラゴン・トールと出会う。そして酔った勢いのままにトールを助け、「私のとこ来る?」「じゃあメイドやって!!」と約束を交わしてしまった。
その翌日、約束を本気にしたトールがメイド姿で小林さんの家を訪れたことから、この物語は始まっていく――。


初めはトールが人間界の常識を理解しておらず、小林さん以外どうでもよすぎて眼中になかったり、洗濯ものの汚れを唾液で溶かそうとしたり、やたらと自分のしっぽを食べさせようとしてきたりとハプニング続きだったが、小林さんと暮らしていく中で少しずつ人間社会のことを知り、馴染んでいく。

また小林さんも、トールがいることで荒んでいた生活に潤いと余裕が生まれ、人間らしさを取り戻していく。
トールは本来、ドラゴンの中でも人間と敵対している「混沌勢」に属しており、基本的には人間を「下等生物」と見下している。そして破壊を得意とする彼女は、やろうと思えばその辺一帯を消し炭にすることなど容易い力を持っている。だが小林さんを心から大切に思い、ともに歩む努力をし、嬉しそうに世話を焼きながら平和に暮らそうと努める様子に、トールの小林さんへの思いの本気度を感じずにはいられない。なぜここまで小林さんに執着するのか。それについても、彼女の生い立ちなどから徐々に明かされていく。
また、トールがいることで、小林さんの周囲は次第に人ならざる者であふれていく。最初にやってきたのは、幼いドラゴン・カンナカムイ。映画版の中心となっている女の子だ。

カンナはある悪戯によって人間界へ追放され、トールを追って小林さんの家へやってきた。最初は「トール様とわかれて」「淫乱メガネ!!」と嫉妬心を顕わにしていたが、小林さんの優しさに触れ、寂しがり屋な性格もあってかすぐに懐き、親のように慕うようになる。

実際はドラゴンだと分かっていても、こんなに可愛い姿で懐かれたら、筆者なら何でも言うことを聞いてしまいそうだ。
その後も、トールを連れ戻しにきた真面目で食いしん坊なエルマ、トールがクリスマスパーティーに呼んだことで繋がりができたケツァルコアトルとファフニール、破壊目的で人間界に現れたイルルなど、個性的なドラゴンが次々と現れ始める。

それだけでなく、小林さんのオタク仲間でもある会社の同僚・滝谷真や、小学校へ通い始めたカンナのクラスメイト・才川リコなど、人間側のインパクトもまったく負けてはいない。
どこを取っても、誰を取っても目が離せない濃さの連続で、いったい何が起こるのか、どんな化学反応が起こるのかとついつい先へ先へと読み進めてしまった。
本作のキャラクターたちは、それぞれが違う常識で世界を見つめ、ときに流され、ときに戦いながらいろんなことを考えて生きている。そしてその先にあったのが、小林さんをきっかけとした今の生活なのだ。また、全員が小林さんに収束するのではなく、繋がってはいながらも各々に運命といえる出会いがあるのも大きな魅力の一つ。
ドラゴンという長い年月を生きる彼女ら、彼らだからこそ、その道のりに一層重みを感じさせてくれるし、「今」にたどり着いてよかったと心に温かさが広がっていく。筆者も、誰かのそんな存在になれたらいいなと感じた。
読めば読むほど予想もしない展開に驚かされる『小林さんちのメイドラゴン』。まずは映画化される8巻までの内容をおさらいしつつ、映画を楽しんだあとは、コミックスでカンナとカンナ父の変化を見守りながら、笑いあり涙ありバトルありの物語がどこへ向かうのか、小林さんとトール、仲間たちはどうなっていくのか、ぜひとも最新刊まで駆け抜けてほしい。

文=月乃雫