このヒロインは空気を読まない! 一方的に離縁された女性が「覗き見」で陰謀・策略・秘密を暴く、王宮ミステリーマンガ【書評】

マンガ

PR 公開日:2025/6/30

王宮女官の覗き見事件簿~空気読まずにあなたの秘密暴きます~
王宮女官の覗き見事件簿~空気読まずにあなたの秘密暴きます~もり:原作、大橋薫:作画/少年画報社

 正義のためじゃない。ただ知りたいから、暴くだけ。『王宮女官の覗き見事件簿~空気読まずにあなたの秘密暴きます~』(もり:原作、大橋薫:作画/少年画報社)は、閑職に追いやられた元伯爵夫人が宮廷の謎を解決していく、爽快なミステリーマンガだ。

 主人公のアリエス・クローヤルは、マーデン王国の王宮に勤める女官。かつて隣国の伯爵家に嫁ぎ、子どもができないことを理由に離縁された過去を持っている。温暖な気候で平和なマーデン王国だが、宮廷内には欲望と策略が渦巻いていた。そんな権力の巣窟を、アリエスはメイドに扮して自由に歩き回り、密かに情報を集めながら、さまざまな事件の真相を暴いていく。

『屋根裏部屋の公爵夫人』で人気を博したもり氏による原作を、ベテラン作家・大橋薫氏がコミカライズ。華やかさの裏に潜む欲望や謀略を描き出す、王宮ミステリーの新たな快作だ。

 本作の魅力はなんといっても、主人公アリエスの特異なキャラクター性にある。「他人の秘密は宝物。覗き見や盗み聞きは楽しい宝探し」――そう言い放つ彼女は、空気を読まず興味の赴くままに行動する。周囲の反応にも一切動じない図太さは、一見すると生まれついてのものにも思えるが、実は過酷な人生を経て身につけた“処世術”だ。

 貧乏な伯爵家に生まれたアリエス。幼い頃は心優しい少女で、家族のために役立とうと懸命に尽くしていた。しかし、社交界デビューもさせてもらえないまま、お金と引き換えに隣国の伯爵家へと嫁がされてしまう。

 夫となった男は女好きの酒乱で、暴力を振るうような人物だった。従順な妻を演じ耐えていたアリエスだったが、ついには無一文で放り出されてしまう。出戻った実家で待っていたのは、家族からの冷たい対応。目が覚めたアリエスは、自分のためだけに生きていくと決意する。

 自己犠牲を強いられてきた女性が、痛みを通じて“したたかさ”を得るまでの過程に、読者は一種のカタルシスを感じるはず。

 アリエスが王宮内の事件に関わるのは、決して正義感ゆえではない。動機はあくまで個人的な好奇心であり、他人の秘密を暴くことに躊躇も罪悪感も持ち合わせていない。彼女にとって事件に潜む謎や欲望は、知的な興味を刺激する「宝物」にすぎないのだ。

 一方で、「事件の裏で犠牲になるのはいつだって女性」「強者から弱者への一方的な力の支配が許せない」と、弱い立場の人々が虐げられることへの怒りも心の奥に秘めている。

 また、衛兵ジークとの不思議な協力関係も大きな見どころだ。アリエスに興味を持ち、たびたび彼女の行動に首を突っ込んでくるジーク。何を考えているのか分からない飄々とした男だが、いざという場面では迷わず身を挺して彼女を助ける、頼れる存在でもある。しかし、そんなジークにはある秘密があり……。

『王宮女官の覗き見事件簿 ~空気読まずにあなたの秘密暴きます~』最新コミックス第4巻・第5巻は、2025年6月30日(月)に同時発売された。謎を暴き、権力の横暴を軽やかにひっくり返していくアリエスの姿に、胸がすく読者も多いはず。スカッとした読後感を味わいたい人は、ぜひ手に取ってみてほしい。

文=倉本菜生

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