全世界で1億部を超える傑作ミステリ『そして誰もいなくなった』がコミカライズ! 孤島に集められた10人に迫る、“逃れられない運命”とは?【書評】
公開日:2025/6/30

ミステリの女王アガサ・クリスティーが遺した傑作小説をコミカライズ! それが『そして誰もいなくなった〔コミック版〕』(アガサ・クリスティー:原作、二階堂彩:漫画/早川書房)だ。
舞台は絶海の孤島・兵隊島。そこに招かれたのは、職業も年齢も異なる10人の男女。だが彼らには、ひとつの共通点があった。それは、いずれも過去に“大罪を犯していた”ということ。
正体不明の主催者、童謡になぞらえて次々と起こる連続殺人、そして姿を消していく参加者たち。犯人の正体も動機も見えないまま、疑心と恐怖が交錯する緊迫の心理戦が展開されていく。
本作の大きな魅力は、単なる犯人探しにとどまらず、“人間の罪”とは何かという深い問いを読者に投げかけてくる点にある。直接手を下していなくとも、人の死を招いた行為は罪と呼べるのか。登場人物たちの過去を前に、読者は「この人物は本当に裁かれるべきなのか」という問いと向き合わされる。
たとえば、カトリックの教えを厳格に守る老婦人・ブレントは、妊娠した使用人の女性を「ふしだらだ」として屋敷から追い出し、結果的に彼女は絶望の末に川へ身を投げて命を絶ってしまう。しかしブレントは一切の罪悪感を抱かず、「自分で破滅の道を歩んだ結果よ」と言い放つ。その冷淡な言動には、読者も思わず言葉を失うだろう。彼女は法的には殺人を犯していないが、その言動の凶悪さは決して軽視できない。
1930年代のイギリスを舞台に、身分制度や戦争の影、そして手紙を主な通信手段としていた時代の空気が息づいている。マンガという表現形式をとることで、そうした時代背景も自然に受け入れられ、すんなりと物語の世界に没入できる。ミステリならではの奥深さや緊張感をより身近に感じられるのは、コミック版ならではの見どころだ。
原作を知らない読者はもちろん、小説をじっくり読む時間がなかなか取れない人にとっても、物語の本質に触れられる絶好の入り口となるだろう。まさに“読むべき”珠玉の1冊である。