天狗の娘とのちの新選組剣士が果たす運命の出会い。幕末京都にときめきあふれる『壬生狼につばさ』【書評】

マンガ

更新日:2025/6/26

壬生狼につばさ
壬生狼につばさ長舩みずほ/白泉社

 この2人には絶対に幸せになってほしい、いや、ならなきゃおかしいでしょ! 1話読んだだけでそう思わせてくれる運命の出会いがあると、少女マンガを読んでる〜〜!って気持ちになりますよね。6月20日に単行本が発売された長舩みずほ(おさふね)氏の初のオリジナル連載『壬生狼につばさ』(白泉社)は、そんな運命の出会いがばっちり描かれた、ときめきいっぱいの作品だ。

『壬生狼につばさ』
 文久3年(1863年)の京都。一族を滅ぼし、その心臓を奪い山を下りた兄を追う天狗の娘・紫苑(しおん)と壬生浪士組、のちに新選組と呼ばれる剣客集団に属する藤堂平助(とうどう・へいすけ)の出会いから物語は始まる。天狗の心臓は、人を化け物へと変える劇薬。一族の仇を討つため、京都の平和のため、紫苑と平助は協力し、紫苑の兄を追うことになる。

思わず応援したくなる天狗の娘と藤堂平助

 天狗の娘とのちの新選組剣士というだけで刺さる人には刺さる組み合わせだけれど、それ以上に2人のキャラクターが最高。天狗の長の娘だった紫苑はいわばお嬢様、おまけに人里に下りてきたばかりで世間知らずなところも。そんな純朴な一面に加えて、一族を皆殺しにされたばかりだというのに悲愴感は漂わせず、自分よりも周りの人々を常に気遣うことのできる健気さ! 応援せずにはいられない100点満点な主人公だ。

『壬生狼につばさ』

 そして平助は「べっぴん」と称される美男子。紫苑に甘い言葉をささやくこともあるけれど、プレイボーイというわけでもなく、上司である近藤勇の前では子犬のようになってしまう。血しぶき舞う京都の街を生きる剣士とは思えないほどの真っ直ぐさがまぶしい好青年である。

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『壬生狼につばさ』

 そんな2人が出会ったのは、天狗の心臓を与えられ、怪物と化してしまった壬生浪士組剣士との戦いの中。家族を失ったばかりの紫苑を、怪物になった仲間を手にかけないといけない平助を、戦いの中でも互いに気遣う2人の姿に胸を打たれる。戦いののち、紫苑は傷ついた平助を天狗の力で救う。作中で明言されているわけではないけれど、こうした「命を分け与える」ともいえる行為によって、2人の絆は強く結ばれたのだと感じさせてくれる。

『壬生狼につばさ』

 作品をより魅力的にしているのは長舩氏の絵柄だ。きらきらと輝く紫苑の瞳は、彼女の前向きな性格を表している。おしゃれをして照れる紫苑、初めて食べる甘味に目を輝かす紫苑……表情を追うだけでも楽しむことができるほど、キャラクターは表情豊かだ 。白泉社の漫画投稿サイト「マンガラボ!」に投稿された長舩氏の作品を、のちに『壬生狼につばさ』 の掲載誌となる「花ゆめAi」の編集長は「表情が生き生きとしていて目をひく」と評している。 そうした魅力が『壬生狼につばさ』でも遺憾なく発揮されている。

『壬生狼につばさ』

 史実において平助は慶応3年(1867年)に23歳でその短い生涯を終える。また本作は、紫苑が現代から幕末を振り返る形で幕を開けている。別れの予感があるからこそ、今後が気になるというのもあるけれど、どうかどうか2人には幸せになってほしい。そう願わずにはいられない作品だ。

文=ダ・ヴィンチWeb編集部

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