余命宣告された子猫が教えてくれた生きる力。地域猫がつないだ病気の子猫と病気の人間の命のリレー【書評】

マンガ

公開日:2025/7/27

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 動物とは会話ができないから、自分たちと一緒に過ごせて幸せだったのかを確認することはできない。だけど、きっと心を込めて愛した日々があるなら、言葉を話せない動物にもその想いは確かに伝わっているのだろう。

スローステップ朔太郎』(叶輝:漫画、朝待夜駆:脚本/KADOKAWA)は、漫画家の叶輝とパートナーの朝待夜駆が家の軒先に現れた全身傷だらけの子猫を引き取り、看護を通して自分たち自身の人生も見つめ直していく物語だ。朝待は数年前からうつ病に苦しみ、休職を繰り返す日々を送っていた。そんな彼らの前に現れたのは、独りで生き抜いてきたであろう、傷跡だらけの小さな猫。「朔太郎」と名付けられ、夫婦の献身的な看護を受けるのだが、検査の結果、深刻な病気を抱えていることが判明する。

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 病気を抱えながらも必死に生きようとする朔太郎の姿に触れ、長らく後ろ向きだった朝待の心にも変化が訪れる。朔太郎との日々を大切にするために、前向きな行動を取り始めるのだ。転職を決意したり、自分にとって心地よい環境を模索したりと、新たな一歩を踏み出す。朔太郎の存在を通して希望を見出せるようになっていく。

 本作を社会に生きづらさを感じる人や、ペットと暮らす人、病気の家族を支える人など、様々な悩みを抱えながら日々を必死に生きる人におすすめしたい。小さな命は人間よりも短い時間を生きる。だからこそ、日々を大切にする意味を改めて教えてくれる。病のために、共に過ごせる時間は限られていた朔太郎。しかし、その短い時間の中でも、人生の本質について教えてくれる大切な存在だったのだ。

文=ネゴト / くるみ

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