ゆるやかに繋がる人と人の思いと優しさ。特別じゃない日の中にあるささやかな幸せ【書評】

マンガ

公開日:2025/7/27

 誰もが見過ごしてしまいそうな日々のかけらを、優しくすくい取るように描く連作短編コミック『特別じゃない日』(稲空穂/実業之日本社)。何気ない暮らしの中にある家族の愛や、人の繋がりと成長が丁寧に描かれ、SNSでも長年にわたり多くの読者の心をつかんできた人気シリーズだ。

 物語に登場するのは、小さな町で暮らす人々。どのキャラクターも、一見すると平凡。でも、彼らの奥には深く静かな優しさが宿っている。ぶっきらぼうだけど、おばあちゃん思いのおじいちゃん。子育てに追われながらも、子どもたちの成長と自身が親から受けた愛に気づいていく母。妹や友達との関わりの中で、少しずつ大人へと近づいていく少年。コンビニの店員やアパートの住人まで、それぞれが自然に繋がり合い、優しさが波のように広がっていく。

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 どのエピソードにもきちんと起承転結があり、優しい余韻を残してくれる。特に私が心を打たれたのは、花火大会のエピソード。父親とお祭りに来た少年が、ずっとスマホを手にしている姿に、最初は「ゲームに夢中なのかな」と少し寂しさを覚えた。しかし、実は風邪で来られなかった妹のために、花火や出店の様子を撮影していたのだった。「次は風邪ひくなよ」と笑う姿に、言葉では言い表せない愛情が滲んでいる。読者の予想を優しく裏切り、思わぬ温もりへと変わる瞬間が、この作品には何度も訪れる。

 シリーズが進むごとに、登場人物の過去や背景が少しずつ明かされていくのも魅力のひとつだ。最新刊『特別じゃない日 はたらく理由』では、子猫のシャケを拾った青年・吉田の物語を中心に、町の人々の仕事や働く理由について描かれている。シャケの治療費を稼ぐために動物病院で働き始めた吉田は、厳しそうに見える院長とのやり取りの中で、少しずつ変化し動物のことも知っていく。またコロッケ屋を営む吉田の両親や、コンビニの店長と旧友の関係なども描かれ、人と人との繋がりの温かさに、静かに涙がこぼれてしまう。

 どの巻からでも楽しめる連作短編形式なので、気になったキャラクターのエピソードから始めてもOK。まずは、あなたの心にふれる「特別じゃない日」を探してみてほしい。

文=ネゴト / fumi

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