あなたはどこで最期を迎えたい? 「自宅で死にたい」という願いに寄り添う訪問看護師のリアル【書評】
公開日:2025/7/24

できることなら、最期の瞬間まで愛する人のそばで、住み慣れた自宅で過ごしたい。そう願う人は少なくない。
『終のナース 終末期訪問看護師の看取りの現場』(にわみちよ/竹書房)は、そんな最期の願いに寄り添う在宅訪問看護師たちの姿を描いた、ドキュメンタリータッチの物語である。
物語の中心となるのは、新米の訪問看護師・星野ひな。病院ではなく、「生活の場」である自宅で、患者やその家族と向き合いながら、悩み、迷い、少しずつ成長していく姿が描かれている。医療者である前に、一人の人間として人生の終わりに寄り添い、患者と真摯に向き合おうとする彼女の姿からは、この仕事のやりがいとその役割の大きさが、静かに伝わってくる。
たとえば、乳がんを患う中村さんのエピソードでは、手術の同意書にサインするその手元から、にじみ出る不安や喪失感が伝わってくる。中村さんの気持ちに寄り添い、安心させようと優しい言葉をかけるひな。やがて中村さんは、自らの死を受け入れ、最期まで娘とともに過ごせることに深い感謝の気持ちを抱くようになる。看取りの現場には、痛みや悲しみだけでなく、温もりも確かに存在する。それをそっと教えてくれる場面だ。
本作の魅力は、単に終末期医療の現実を伝えるだけでなく、死を受け入れていく患者たちのリアルな心の動きまで丁寧に描いている点にある。自らの死期を知ったとき、人はどう生きるのか。そして、限られた時間をどう過ごしたいのか。物語を追ううちに、「これは自分にも起こりうる」と、自然と自らの未来に重ねて考えさせられる。
「自宅で死にたい」と願う人は多い。けれど、現実にはその希望を叶えられる人はごくわずかしかいない。だからこそ、在宅看護という選択肢がもっと多くの人に届いてほしいと願わずにはいられない。
限られた時間を家族と過ごしたい。愛着のある家で、穏やかな最期を迎えたい。そんな思いこそが、終末期医療において何よりも大切なのだと、この作品は静かに、そして確かに伝えてくる。医療のあり方や一人ひとりの尊い命とどう向き合うか。生きること、そして死を迎えることの意味を深く問いかけてくる一冊だ。