芳根京子「優しい台詞の数々に私も心が温かくなりました」【インタビュー】

ダ・ヴィンチ 今月号のコンテンツから

公開日:2025/7/6

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2025年7月号からの転載です。

 日本映画界の巨匠・小津安二郎をモデルにした舞台『先生の背中』が公演中だ。ヒロインの幸子を演じる芳根さんは6年ぶりの舞台出演をはたす。

「前回の舞台がとっても濃密で。やりきった感が長く続いていたのですが、2年ほど前からまた挑戦したいと思うようになったんです。何事もトライしなければ経験値は上がらない。自分から飛び込もうと決心した分、今は楽しみのほうが大きいです」

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 舞台は昭和30年代の映画撮影所。中井貴一さん演じる小田監督が、娘のようにかわいがる幸子から婚約の報告を受けるところからストーリーが始まる。

「映画関係者が通う食堂の看板娘という役ですが、実は小津監督と親交が深かった中井さんのお母様がモデルなんです。それを聞いてびっくりして。中井さんが嫌な気持ちにならないように気をつけようと思っています(笑)。また、幸子にとって小田先生は父親のようであり、恩人でもある。人生で恩人と呼べる人に出会えることなんてそうはないと思いますし、これからのお稽古で中井さんとどんな関係性の役を作っていけるのか、私もワクワクしています」

 映画に人生を注いできた小田は、ときに現実から逃げるように、幸子をはじめとする5人の女性たちに癒やしを求めにいく。そんな彼女たちとの白昼夢のような会話も見どころのひとつ。

「妻のような関係性のキムラ緑子さんやスター女優役の柚希礼音さんなど、尊敬する先輩方との共演も楽しみです。どの役の女性も自分らしい生き方を貫き、その姿が本当にかっこよくて。それぞれが小田先生を尊敬し、魅了されているのが伝わってきますし、5人の女性と先生が織り成すエピソードはどれも心地よく胸に突き刺さってきました」

 また、「切ない要素もあるけれど、どの台詞も聞く人の心を温かくしてくれる」と芳根さん。

「脚本の鈴木聡さんが紡ぐ言葉はどれも魅力的で、優しい気持ちになるんです。それに、この作品は幸子の結婚という希望に満ちた未来を描いている一方で、お年を召された小田先生にとって目の前の撮影が最後になるかもしれないという“人生の区切り”もテーマになっている。それでも、人生の豊かさが感じられるラストになっていますし、観劇後に感想を誰かに伝えたくなる……そんな魅力に溢れた舞台になるのではと思っています」

取材・文=倉田モトキ、撮影=booro
ヘアメイク=猪股真衣子(TRON)、スタイリング=杉本学子(WHITNEY)、衣装協力=セットアップ2万8600円、インナー1万4300円(ともにAmeri/AMERI VINTAGE TEL03-6712-7965)その他スタイリスト私物

よしね・きょうこ●1997年、東京都生まれ。2013年にドラマ『ラスト♡シンデレラ』で俳優デビュー。連続テレビ小説『花子とアン』、ドラマ『表参道高校合唱部!』への出演で注目を集め、16年に連続テレビ小説『べっぴんさん』でヒロインに抜擢。近年の出演作に、ドラマ『まどか26歳、研修医やってます!』など。現在、ドラマ『波うららかに、めおと日和』に出演中。11月に映画『君の顔では泣けない』が公開。

舞台『先生の背中 ~ある映画監督の幻影的回想録~』

脚本:鈴木 聡 
演出:行定 勲 
出演:中井貴一/芳根京子、柚希礼音、土居志央梨、藤谷理子、久保酎吉、松永玲子/升 毅、キムラ緑子ほか 
6月8日(日)より東京・PARCO劇場ほか、大阪・福岡・熊本・愛知にて巡演

『東京物語』をはじめ、人間の機微を描いた名作を数多く残した巨匠・小津安二郎監督をモデルに、映画の世界で生きる人々の姿を優しい視点で綴った喜劇作。テレビがお茶の間を席巻し、映画の黄金期に陰りが見えだした昭和30年頃、日本映画界の名匠・小田(中井貴一)は新作の撮影に臨んでいた。しかし、準備が整ってもなかなか本番に向かわない小田に、盟友であり脚本家の野崎(升 毅)は小田の体調を疑う様子を見せる。そうした中、撮影所近くの食堂で働く幸子(芳根京子)から婚約の報告を受け、小田は祝いを兼ねてさらに撮影を引き延ばそうと画策。やがて、小田はスタッフたちから離れて一人佇むも、そこへ彼と心の関わりがあった5人の女性たちが幻となって現れ、小田をかつての記憶の中に引きずり込んでいく……。