ためこみ症のヒロインの波乱万丈な半生をみつめた、ストップモーションアニメの傑作【アダム・エリオット インタビュー】
公開日:2025/7/24
※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2025年7月号からの転載です。
雑誌『ダ・ヴィンチ』の人気コーナー「カルチャーダ・ヴィンチ」がWEBに登場! シネマコーナーでは、目利きのシネマライターがセレクトする“いま観るべき”映画をピックアップ。その舞台裏を、作品に携わる方々へのインタビューで深掘りします。

「収集癖とためこみ症を分ける一線は何か? 羞恥心の影響や、トラウマになるほどの喪失を経験しているケースが多いと学び、その心理に興味をもったことが着想のきっかけです。私の作品はフィクションだけれどパーソナル。私自身をなるべく注入したいとも思っています。できるだけリアルに近づけ、観客に共感や愛着を抱いてもらうには、実体験を活かすことが有効です。今作にはまた、口蓋裂をもって産まれた友人の人生と、私の母の人生の一面も反映させました」
苦い現実やブラックユーモアを織り交ぜながら、人生を肯定する温もりのある物語へと昇華。
「最大のチャレンジはバランスでした。喜劇と悲劇、光と闇、そしてユーモアと哀愁の両面がきちんと描けているかどうか。だから軽妙なキャラクターを生み、沈んだ空気のまま終わらせないようラストも捻りました。人生はジェットコースターそのもの。100%ダークにも100%コメディにもしたくない。エモーショナルであると同時に奥行きがある作品を目指しました。下ネタも登場? 生きていれば誰でも、やんちゃはするでしょう(笑)」
カタツムリについては「初稿ではテントウムシの設定でした。でもかわいすぎるし、しっくりこなくて。頭の先に触れると引っ込むカタツムリなら、内向的なグレースのメタファーにピッタリですよね。殻の渦巻模様が人生を連想させ、視覚的なモチーフとしても美しいのではないかなと。そしてこれはリサーチ中に知ったことですが、カタツムリは前にしか進めない。それが劇中に引用したキルケゴールの名言と巧くリンクしました」
火や炎の生々しさにも心躍る。
「デジタルに頼ろうかと思うほど、火の表現には苦労しましたね(苦笑)。何か月も実験を繰り返し、試行錯誤の末に黄色いセロファンを使う方法に辿り着きましたが、協力してくれた多くのアニメーターのおかげです」
取材・文=柴田メグミ、写真=鈴木慶子
アダム・エリオット●1972年、オーストラリア生まれ。メルボルンを拠点に活動するアニメーター、ヴィジュアルアーティスト。2004年の『ハーヴィー・クランペット』でアカデミー賞短編アニメーション賞ほか多数の賞を獲得し、世界的な注目を集める。初長編作『メアリー&マックス』は、アヌシー国際アニメーション映画祭でクリスタル賞(最高賞)に輝いた。

『かたつむりのメモワール』
監督:アダム・エリオット
声の出演:サラ・スヌーク、コディ・スミット=マクフィー
2024年オーストラリア 94分
配給:トランスフォーマー 6月27日よりTOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開
●病気がちでいじめられっ子のグレースは、父を亡くし、双子の弟とも離れ離れに。カタツムリを集めることだけが心の拠りどころとなる……。手作業にこだわり、8年の歳月をかけたストップモーションアニメの傑作。